経済を脳死させないために「金利教育」の強化が不可欠だ - 磯崎哲也

2010年01月29日 20:49

いよいよ2月1日から全国で中学受験が本格的に始まる。私事で恐縮だが、我が家の次男も現在ラストスパート状態に入っている。

見たことがある方はご存知だろうが、昨今の中学入試の問題はとてつもなく難しい。アゴラの記事を読まれている方は社会でそれなり以上の活躍をされている方々が多いと思うが、大変失礼ながら、そうした方々でも数日勉強しただけで中堅以上の中学に合格するのはかなり難しいように思われる。
しかも、問題は必ずしも特殊な知識や受験のテクニックを知らないと解けないものではなく、例えば社会でも、憲法や産業別の貿易等、社会生活をする上での基本的な知識を幅広く問う良問も多い。
こうして見ると、日本の教育水準は(少なくとも中学入試が一般的ではなかった私が子供の頃などよりは)格段にレベルが上がっているようにも思える。

一方で、「社会人としてこれだけは知っておかないと文字通り命に関わる知識」が初等教育から大きく抜け落ちている領域もある。
それが「金利計算についてのリテラシー」だ。

ご案内の通り、多重債務者問題は自殺者も多く生み出し、最高裁における一連の判決による過払金返還や法改正で消費者金融専業者大手の経営も困難を極める状況に陥っている。
合法と解釈されていた商慣行がある日突然否定され、一つの産業が崩壊の危機に瀕するというのは、有識者の間からも同情的な意見が聞かれる。私も過去に貸金業の調査を行った経験などから、真面目に経営を行っている業者も見ており、ドラマに出て来るような一部の過剰な取り立てのイメージで、貸金業が社会から過度の制裁を受けるのは大きな問題だと考えている。

しかし、「金利」の問題は、そう簡単ではないのも事実だ。

基本的に、日本人は世界の中でも比較的、計算のリテラシーがある方だと言っていいだろう。
会田 雄次氏の「アーロン収容所」は、会田氏が太平洋戦争中にビルマ(当時)のアーロン収容所で捕虜となった時の体験談だが、この中に、イギリス兵が(具体的な数字は忘れたが)1ダース入りの箱18箱の中に入っている個数を計算するのに、12を18回足し算していたのを見て会田氏が驚くエピソードがある。

おそらく日本の社会人の8割以上は、こうした「自然数の掛け算」はちゃんとできるし、少なくともこのようなケースで足し算を18回することはやらないだろう。

一方、私は日本人の9割以上は「小数の掛け算」を実生活に活かす力は無いのではないかと思う。
「元本×金利(パーセント)」という掛け算がちゃんとできるのであれば、今まで起こったような消費者金融問題のかなりの部分は、起こらなかったに違いないからである。

以前、消費者金融大手の企画部門の方に伺った話だが、

当社で、顧客の金利に対する感度を見るために、一部上場企業の課長クラスを無作為に2グループにわけて、DMを出してみた。
1つのグループに出したDMには10%台の金利が書いてあり、もうひとつのグループは30%台の金利だったが、驚いたことに、この2つのグループからのレスポンス率は、まったく同じだった。
一部上場企業の課長クラスですよ?
どう考えても一般常識を十分に持っている客層のはずだが、そういう人たちでさえ、消費者金融の金利に対する感覚が全く無いとしか考えられない。

とのことで、ましてや一般の人の金利に対する合理性というのはまったく期待できなさそうなのである。

こうした問題意識もあり、数日前にツイッター上で以下のようなことをつぶやいてみた。

小数の掛け算ができない人はほとんどいないはずだが、「年利0.4%の3ヶ月定期に100万円を満期まで預けるといくら利息がもらえますか?」という文章題が解ける人はたぶん日本人の1割未満なんだろうという気がしてきた。

これに対して、何十人もの人が回答をツイートしてくれたのだが、この答えが想像以上にイタかった・・・。

回答例は、以下の通り。

「3000円」
「とっさには計算できない」
「108万7757円」
「100万9853円」
「400円」
「一万円?」
「666円」
「100.1万!」
「1333円」
・・・

ちなみに私が期待していたのは、シンプルに考えて、
元本100万円×(3ヶ月/12ヶ月)×0.4%=1000円
という答え。

1+0.004の(3/12)乗根を求めないといけないので、手計算では無理。

といった回答が結構多かったが、預金の金利の表示は、次の方の回答のように、「単利表示」なので、これは「複利」という概念を知っているがための考え過ぎである。
(しかし、この方々は単利表示だという知識があれば、理解力には問題がなさそうだ。)

12月まで銀行で働いていました。(元本)×年率の表示金利×(預入日数)÷365日 で税引き前の預金利息額が決定します。その後税金引かれます。単利表示ですね。

つまり、日数計算をすると、実際に銀行でもらう利息は1000円ぴったりではなく端数が付くし、そこまで正確に回答いただいた人もいる。もちろんそれが現実の日本では正確なのだが、「千円」の答えが出せれば、金利に関して社会で大失敗をすることはないだろう。

もう一点、源泉税を考慮していただいた方も多数いて、20%を引いた「800円」または日数計算した正確な金額を回答いただいたケースもいくつかあった。
もちろん、実際に源泉税がかかるという知識があるほうが実践的だから、これでも全くOKだろう。

(細かいことを言えば、源泉税は「もらえる利息の額」から引かれるものなので、法的に「もらえる利息の額」は税引き前の数字が正しいとも言える。
会計の仕訳も、
(借方) 預金   800円 (貸方) 受取利息 1000円
     源泉税  200円
と、受取利息は総額で記載するのが普通。)

以上のような「単利か複利か」「日数計算」「源泉税」といった細かいことまで考えなくても、上記の問題の答えが「だいたい千円くらい」というのがピンとくる人であれば、生活に大きな支障を来すことはないはずだ。

しかし、「3000円」とか「400円」といった回答をした人は、「金利は元本に利息と期間を掛けあわせて計算する」という基本的なしくみがわかっていないか、小数の掛け算の計算力が無いかのどちらかだから、これは大問題である。何度も言うように、へたな金利で借金をしてしまったら、命に関わりかねないのである。

以上のデータは、ツイッターで任意に回答していただいたものなので、もちろん正確なデータではないが、半分以上の人が明らかに間違っていたことを考えると、実際に9割以上の人が金利の計算が出来ないというのは、あながちはずれていないと思われる。

経済学で「情報の非対称性」という用語があるが、「金利が計算できない問題」は、金融機関が持っている大量の情報が消費者に伝わらないわけでもなければ、デリバティブのように、ルート√や分散σといったそこそこ難しげな数式が出て来るものでもない。
金利計算に必要な数字は基本的には金利や期間、元本の額だけであり、後は小学校レベルの知識で計算できるはずなのである。

しかし、2人の息子に聞いたところ、小学校で金利の計算を習った記憶は無いそうだ。
なぜ金利について小学校の授業で教えないのだろうか。
まさか教育界に「金のことを教えるなど汚らわしい」といった偏見があるわけではなかろうが、ぜひ、義務教育段階でこうした金利の計算が全員できるようになるような教育を行っていただきたい。

金融についての教育がテスト的に試みられているケースもあるようだが、全国一律では普及していない。想像を超える金利がかかって多重債務に陥ったり死を選ぶ人を生み出さない意味でも重要であるし、ほとんどの人がこのような小学生レベルのことすら理解できない弱者であるとしなければならないのであれば、自由に当事者が合意して経済活動を行う市場経済の前提は根底から崩れ去り、経済の活力は大きく削がれることにもなる。

(1+r)のn乗で割り算する現在価値の計算を小学生に教えろとは言わないが、金利の「掛け算」は社会で自分でビジネスを行うにも基本中の基本である。
「濃度の違う2種類の食塩水を混ぜた後の食塩水の濃度」が計算できなくても、金利の計算は出来るように、小中学生に繰り返し授業を行うべきである。

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