科学への不信感 - 岡田克敏

2010年02月09日 10:27

 「オーガニックコットン」とは農薬などを使わずに栽培された綿花のことですが、グーグルで検索するとなんと163万件もヒットします。多くは販売サイトだと思われ、それを商売にしている業者が多いことにまず驚きます。また、食べ物ならともかく、衣類にまで不安を感じている人が多いことにも驚きました。無農薬だけでなく無化学肥料をうたっているものがあるのは、化学肥料まで不安の対象になっているわけで、もうこれは合理性の及ばない信仰の領域だと思われます。


 世の中には自然のものは良く、自然でないもの・人工的なものは良くないと考える人たちが結構多くいらっしゃるようです。このような考えが生まれた背景には産業の負の側面である公害や農薬の大量使用による生態系の破壊などがあったのでしょう。

 一方、マスメディアは悪いことを好んで取り上げるという困った特性を備えています。科学技術の負の面が大きく報道されたことが一因だと思われますが、科学技術を否定的に捉える一群の人々が生まれました。(参考拙記事 科学技術は役立たず、環境を壊すという教育)

 ここにあるのは科学技術を否定的に捉え、その対立概念として自然を重視する考え方です。科学技術の負の部分を修正するのではなく、科学技術を全体として否定し、対立するものとして自然に価値を求めたわけです。二つしかないので実にわかりやすい話ですが、ここには自然と科学技術が対立概念としてはたして適切であるのかという強い疑問があります。

 例えば、毎年10人前後が食中毒で亡くなりますが、そのほとんどはキノコやフグ、ボツリヌス菌などの自然毒であり、農薬などによるものはまずありません。しかし、自然食品、無農薬〇〇、オーガニック〇〇などが大きい市場を形成するようになりました。検査システムだけでなく、科学技術に対する不信がその背景にあるためでしょう。

 かつて科学技術は素晴らしい未来を実現すると信じられた時代がありました。実際、科学技術がもたらしたものはまことに大きく、飢餓や多くの病気から解放し、物質的には豊かな時代を築きました。むろん負の面がなかったわけではありませんが、それは功績に比べると小さなものです。

 しかしメディアの世界では科学技術の負の部分に起因する事件や事故の報道がその功績の報道を圧倒していました。その結果、一部の無批判な読者は科学の負の側面ばかり印象づけられ、科学に対する無理解と不信感はかなりの広がりを持っているように考えられます。

 昨年の事業仕分けでは科学技術予算の削減が話題になりました。素人の仕分け人がばっさり切り捨てたものの、あとで専門家などから強い批判を浴び、一部が復活しました。もとより日本の政府の科学技術予算のGDP比は主要国中で低位を占めています。

 鳩山内閣は2020年までに国内の温暖化ガス排出量を1990年比25%減らす目標達成に向け、ロードマップ案を作りましたが、その中にはもっとも必要と思われる原発に関する記述がありません。社民党は原発を否定する立場ですから、これに配慮したのでしょうか。

 科学の重要性に対する適切な理解があれば、教科内容の3割を削減するという「ゆとり教育」は恐らく実現しなかったでしょう。科学への無理解と不信感がマスメディアや教育、政治の場で広がれば影響力を強めれば、国の将来に取り返しのつかない損失を招きかねないと思います。不安を食いものにする怪しげな産業だけは栄えることになりそうですが・・・。

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