電子書籍の最終勝利者 - 小飼弾

2010年02月11日 23:57

オープンソース・プログラマー

昨年の Amazon Kindle 2 のブレイク、そして今年1月の Apple iPad の発表により、いよいよ現実味を帯びて来た電子書籍。最終的に勝利を収めるのは Amazon? Apple? それとも LIBRIe を出していた Sony の巻き返しがあるか? それとも Microsoft が XBox ならぬ XBook を出すか…

一番重要な「プレイヤー」を忘れてませんか?

読者という、最大最重要のステイクホルダーを。


すでに書籍は電子化されている

現時点において、日本で日本語の電子書籍を買う方法はほとんどありません。Kindleは日本でも購入可能ですがKindleで購入できるのは米国の英語書籍のみ。SonyのLIBRIeも同様です。わずかに iTunes Store でのみ、iPhoneアプリとしていくつかのタイトルが購入できるのみで(拙著「弾言」「決弾」もその数少ない例外)、あとはダイナミック・アークやディスカヴァー21が出版社単位で細々とやっている程度ですが。本記事執筆時点で、日本語圏には電子書籍市場といえるものはまだないと言えるでしょう。

しかし、市場はなくとも「闇市場」であればすでに存在するのです。

漫画のタイトルの後にスペースをはさんで「.zip」として検索をかけて見てください。「.torrent」でもいいでしょう。驚くほど多くのタイトルが検索に引っかかるはずです。それらの多くは冊子を裁断してスキャナーにかけただけのものですが、中には英訳、中国語訳されたものまであります。

これらはもちろん著作権法違反ですが、ファイルが外国にあるということもあってほとんど取り締まられていないのが現状です。しかし、ここで読者の立場になって現状を見直してみてください。彼らに合法的にこれらの作品を入手する手段が果たしてあるのか、と。

市場がなければ、闇市場が自然発生するだけなのです。これはすでに音楽ファイルにおいて経験ずみです。紙というプレイヤーを兼ねるメディアが存在する本とは異なり、アナログ時代からプレイヤーを必要とした音楽は、本より先に闇市場との戦いが顕在化しました。この戦いは結局どのような形で落ち着いたでしょうか? Apple が iTunes Store という「表市場」を作るまでは沈静化しなかったことはご存知のとおりです。

すでに読者の本棚は満杯である

こうした「闇市場」とは別に、自ら蔵書を裁断して電子化する人も徐々にではありますが増えて来ています。こちらは著作権法違反ではありませんが、この場合読者は本の購入と本の電子化という二重のコストを支払っていることになります。彼らはなぜコストを二重に支払ってまで本を電子化するのでしょう?

そうした方が安いからというのが結論になります。「紙の本が90%亡くなって欲しいと弾言したくもなる、たった一つの理由」(http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51214980.html)にも書いた通り、本は持てば持つほど一冊あたりのコストが上がるのです。数冊なら枕元においておけばよいでしょう。数十冊だと本棚が必要になります。数百冊だと本棚は部屋を逼迫しはじめ、数千冊ともなると本棚のために床の設計を見直すこととなります。そして本好きな人の本棚ほど溢れているのが現状です。

神には勝てない

「お客様は神様です」と言ったのは三波春夫ですが、その三波春夫が「世界の国からこんにちは」を出した1970年は、現在使われているコンピューターの多くにとって「元年」でもあります。これらのコンピューターは1970年1月1日の零時が「ゼロ秒」となっています。ワードプロセッサーすら存在しなかった当時から12億秒あまり。今では本どころか動画まで、最も高速かつ安価に扱うメディアがコンピューターなのです。

その「神様」が、最も古いメディアである本が最もコンピューター化が遅れていることに不満をつのらせています。それがいよいよ爆発しそうなのが、今年2010年なのです。

「神様」にとって、市場を制するのがiPadなのかKindleなのかはたまたWalkmanならぬSitmanなのかは些細なことなのです。Sonyに申し訳ないからとiPodを買うのをためらった人がどれくらいいらっしゃいますか?

神に戦いを挑んでも勝てないことは、音楽業界が証明してくれました。個々の戦闘では勝てても、戦争には負けてしまうのです。どうすれば神と戦うのではなく、神に愛されるかを考えてください。

誰が勝とうと、最後には神が勝つのですから。

Dan the Bookworm

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