PIIGS諸国と日本の財政について  ‐前田拓生

2010年02月13日 12:26

現在、ギリシャの財政問題がユーロ圏各国にも波及し、「PIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)問題」といわれるほど大きくなってきています。そのため、ユーロは対円、対ドルで下落をしています。シカゴIMMでもユーロは対ドルで大きなショートポジションになっています。

でも、よく考えてみると、日本の財政の方が余程問題であり、政府債務残高だけでいえば、円が一番安くて良いことになります。

まぁ、極東における小国の通貨の推移などは「世界的に問題ではない」といえば、そうかもしれませんが、それにしても「財政問題」を抱えている割に「強すぎる」ように感じます。その意味ではもう少し円安でも良いのかもしれません。

とはいえ・・・

自国に通貨発行権のないPIIGSの財政問題と日本の財政問題とは基本的に違いがあるので、日本はもっと財政を悪化させても大丈夫という話をしている人がいます。また、財政が悪化し、政府が返済できないのであれば、日本銀行が国債を買取、それを償却させれば済むので、今、政府が行うべきことはインフレに戻すべく、ドンドンと財政支出をすることが肝要という話もあります。このような話をする人を「リフレ派」と称するようです。

かなり大胆な話ですが、基本的な部分に誤りがあるように感じます。まずはこのようなリフレ派の人たちの言い分を見てみましょう。

「自国に通貨発行権のないPIIGSの財政問題と日本の財政問題とは基本的に違う」という点ですが、これは確かにその通りです。PIIGSの場合、政府債務が多額になれば、その返済のために「増税」が必要になり、政府の基盤が揺らぐことになります。また、当該国の国債がデフォルトになった場合も同じで、ともにユーロという通貨の「リスクプレミアム」を上昇させるため、ユーロ安になってしまいます。

他方日本は、通貨の発行権を「日本銀行」という「国」の機関が持っています。したがって、アコード(政府と中央銀行の協調)が組めるのであれば、直接・間接により違いはあっても、日本国債を日本銀行が買い取り、日本銀行の資産とすることは可能です。つまり、政府の財政を賄うために、日本銀行が通貨発行するわけですから、理論的は無限に国債発行が可能になります。

このように日本は、PIIGS諸国とは違い、自国通貨の発行権が自国内にあるので、政府の返済に問題があっても(理論的には)永遠に借り換えが可能なので、日本はPIIGS諸国のようにはならないということなのでしょう。また、通貨発行増によって多少円安になっても、それは輸出増を誘発するので、貿易黒字の増加によって景気に対してプラスになるので「悪いことではない」と考えている節があります。

以上から、日本は今のような「不況」を脱出するために、今以上に、政府がおカネを使うことで、または/かつ、日本銀行ももっと大胆な量的緩和を行うことで、市場におカネをばら撒けば、それがけん引してインフレになるというのが上述の考える筋道のようです。

ところが、大きく2点、誤りがあるように思います。

まず、「政府の返済に問題があっても(理論的には)永遠に借り換えが可能」という点ですが、日本国債は低金利とはいえクーポンがあるので、借り換えを続ければ、雪だるま式に増加することになり、サスティナブル(持続可能)ではなくなります。つまり、いくら「増税をする」といっても限度があるので、最終的には返済ができなくなることを意味します。返済できない「借金」を認めることはできないので、それが「可能である」という考え方は誤りということになります。

そして、上述との関係もあるのですが、2点目として、「円」という通貨の市場価値のことを全く考えていないという点です。

通貨を発行すればするほど、世界的に見て、当該通貨が希薄化するため通貨価値が下落することになります。また、通貨は現在、金本位制の時代とは違い、何の担保もありません。「ある」のは「中央銀行(資産)に対する信頼」だけですから、もし、日本銀行が保有している国債を「償却する」となれば、日本銀行の資産が毀損することになるため、「中央銀行(資産)に対する信頼」は大きく低下することになり、円は暴落することになるでしょう。

「市場」というモノはバリューに対して冷淡な判断をするとともに、投機的な動きを伴うことから、上述のように日本銀行の資産を毀損するような政策が行われれば、食糧・エネルギーを輸入することさえ不可能になるくらいの円安になる可能性は否めないのです。市場の怖さを知っていれば、これを「非現実」とは思わないはずです。

まぁ、その前に日本国債利回りが考えられないくらいに上昇し、日本経済に大きなダメージを与えることになるでしょうから、「財政を拡大させる」などということは出来なくなるとは思います。「だから、量的緩和」というリフレ派の人もいるのでしょうが、円という通貨価値を毀損させるだけであり、資金需要がない社会においては、全く意味を成しません(しかも現在、日本銀行はかなり大胆な金融緩和策を行っています)。

今、「円安にならない」のは、世界の市場関係者が「日本人は所得も十分あり、近い将来においては増税がある」と思っているからだと考えられます。つまり、「増税をしてもサスティナブルでない」と考えられるような状態になった時に本当の危機になる可能性があるということなのでしょう。

インフレになることは望ましいことはわかるのですが、といって「こうすれば簡単にインフレになる」という非現実的な方法を、さも「正しい」と吹聴するのは如何なものかと思っています。

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