規制改革はもう要らないのか? - 松本徹三

2010年02月14日 10:00

民主党の論調に限らず、世間一般で、「小泉―竹中改革は誤りだった。あの改革が経済を破綻させ、世代格差を広げ、日本を滅茶苦茶にしてしまった」という考えが何となく広がっているように思えます。「規制緩和」については、さすがにこれを「悪」とする論調はないようですが、一向に語られなくなってしまったのは事実のようです。


私はタクシーに乗る機会が多いのですが、過去にもう5回ぐらい、色々な運転手さんが小泉さんのことをクソミソにこき下ろすのを聞いたことがあります。最近聞いたのはこういう話でした。

「やっと来月から車の数が減ります。民主党がやってくれました。これで客待ちの列も少なくなり、我々もまともな生活が出来るようになります。小泉さんがタクシー業界から金を貰い、業界と結託して自由化をしたので、車が滅茶苦茶に増えてしまったのです。運転手の給料は歩合制なので、皺寄せは全て運転手に来て、会社は利益が増えました。小泉さんはアメリカからも金を貰って、沖縄の人を犠牲にしたのです。」

この運転手さんの口調は大変滑らかだったので、恐らく私だけではなく、過去に1000人以上のお客に同じ話をしているのでしょう。一方、私だけでも過去に5回もこういう話を聞いたのですから、恐らくそういう話をする運転手さんは、東京だけでも100人はくだらないのではないでしょうか? そうなると、東京だけで、延べ10万人以上の人が、こういう話を聞いている可能性があるということになります。

私は勿論こんな話を鵜呑みにはしませんが、多くの人達がかなり鵜呑みにするのではないでしょうか? そうなると相当宣伝効果はあるということになります。

この運転手さんには私はあえて反論をしませんでしたが、別の機会に、別の運転手さんに私の方からこの問題を持ち出してみました。この運転手さんも、タクシーの数が減ることについては歓迎しているようでしたが、特に嬉しそうでもなく、私が「でもこれで失業して路頭に迷う運転手さんもいるのでしょう?」と水を向けると、「そうですね。私の会社では50台減ることになるので、130人が職を失います」と、若干さびしそうに答えました。

タクシー行政のことをネットで調べてみると、共産党の国会議員団が2008年9月26日付で中山国土交通大臣(当時)宛に出した「タクシー政策の改定に当たっての日本共産党の提言と要求」と題する書簡の冒頭部分に、小泉さんをこき下ろした先の運転手さんの言い分と同じようなことが書かれています。(勿論「タクシー業界から金を貰った」等とは書いていませんが…。)

そもそも、改革と言うものには試行錯誤がつきものですから、「マイナスが出ないようにやり方を十分吟味する」「予期せぬ問題が生じたり、環境が変わったりすれば、迅速に修正する」「効果が出るのに時間がかかるものについては、国民に対して、継続的に且つ丁寧に経過報告を行う」「基本的な思想と信念が理解されるように、繰り返しそれを語り続ける」等々の努力が必要なのですが、小泉さんの不幸は、後継者達がこれを十分にやった気配がないということです。

米国のブッシュ政権の失政も不幸でした。(尤も、小泉さんはブッシュを盟友としていたわけですから、これについては「不幸」と言うのはあたらないとは思いますが…。)

「アメリカ発の金融バブルの破綻」は、「金融工学」などという「単なる技術」が、あたかも「これまでのルールを変えるもの」であるかのようにもてはやされ始めた時から、或る程度予測出来たことでした。しかし、これを、「市場(原理)主義の本質的な問題の結果」と考える人達を大量に生み出してしまったことは、不幸としか言いようがありません。

勿論、当然来るべき破綻を予測できず、これを放置したブッシュ政権の不手際は許されるものではありませんし、それ以上に、「バブルはいつか破裂する」という「古今東西を通じて誰一人知らぬ人はいないであろう原理・原則」をついつい忘れ、最後の最後まで「自分だけは破裂の前に逃げ出せる」と信じて踊り続けた人達の浅はかさも、あらためて噛み締めなければなりません。

しかし、日本の「特異な資本主義」を「普通の資本主義」の方向へと若干修正しようとした「ささやかな改革」が、「アメリカ発の金融バブルの破綻」と同一視されて、「見ろ。市場(原理)主義は誤りだったじゃあないか。あんな規制緩和はやるべきじゃあなかったのだ」と言われる結果となったのは、小泉さんや竹中さんにとっても、日本国民全体にとっても、極めて不幸だったと言わざるを得ません。

では、これからどうすればよいのでしょうか? 私の望みは、野党でも与党でもよいですから、もう一度「規制」の「総見直し」をして欲しいということです。一言で言えば、「過去の規制緩和」のプロ・コンの「レビュー」と、「これから行われるべき規制緩和」のプロ・コンの「分析」です。

未だ極めて小さな勢力であるにもかかわらず、相当多くの人達の期待を集めている「みんなの党」の政見をあらためて引き合いに出すまでもなく、「経済成長」なくしては、「雇用の拡大」も「格差の是正」も「福祉の向上」もありえないのは自明の理です。

例えば、単純にタクシーを減車してみても、職を失わなかった運転手の生活が若干よくなる見返りに、職を失う人達も生み出すのですから、「雇用」は却って縮小し、「格差」は却って拡大することになります。必要なのは、種々の「自由化」にも耐えられるような経済成長の持続と、マイナス面を生じさせないような木目細かい「自由化」です。

そして、「規制改革」は、「経済成長」の万能薬ではないにしても、有効な方策の一つであることは間違いないのですから、この際、「過去の小泉―竹中改革の是非を問う」といった不毛の議論はさておき、「新しい観点からの規制改革」に、与野党の別を問わず真剣に取り組んでもらうことが必要と考えます。

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