日銀はインフレ予想をコントロールできるのか - 池田信夫

2010年02月28日 20:39

飯田さん、反論ありがとうございます。問題はかなりはっきりしたと思います。

  1. 【モデレートなリフレ政策】0金利の解除条件を明確にし,その遵守のための法的措置を講じる

  2. 【標準的なリフレ政策】コミットメントに裏付けをあたえるために量的緩和・為替介入を併用する
  3. 【強力なリフレ政策】貨幣発行益を直接家計・企業部門に注入したり(いわゆるヘリマネ的な財政拡大),為替レートを大幅な円安水準で時限的な固定相場制を設定したりする

のうち、飯田さんは1と2だけに賛成ということなので、勝間さんの「無限に定額給付金をばらまけ」というナンセンスな主張とは違うわけですね。それなら、本の中でもそういう立場を明確にすべきで「まったくそのとおりですね」というコメントは、「強力なリフレ」に賛同するものと受け取られてもしょうがないでしょう。


それはさておき、1と2は2000年代初頭に日銀のとった政策に近い。この点では、植田さんの意見とあまり違わないわけです。しかし彼の総括は「時間軸政策」によって金融緩和効果はあったが、インフレは起こらなかったというものです。今回の量的緩和でも、マネーストックは逆に減少しました。

岩本さんの「将来のマネーストックを増やすことを皆が確信してくれれば,インフレが起こる」という命題は正しいが、どうすれば日銀が人々の予想を変えて「皆に確信」させることができるのかは明らかでない。「流動性の罠」においてはマネーストックが増えないので、日銀がインフレを起こす手段がないからです。実現できない目標を掲げても誰も信じないのは、政府が「3%の名目成長率目標」をかかげても信じないのと同じです。

あと残されているのは、インフレ予想に直接はたらきかける方法です。理論的には、すべての国民が合理的予想をもち、日銀が永遠の未来までインフレ目標を変えないことにコミットできれば、「0金利の解除条件を明確にする」ことによってインフレは起こりえます。しかしこれは非現実的な条件であり、それが現実にもまったく満たされなかったことは、植田さんが実証した通りです。

飯田さんは「皆を確信させるための方法を考えることに勢力を注ぐべきだ」というのだから、皆を確信させる方法はまだわからないと認めたわけですね。インフレ目標を実現する方法がわからないのに、「その遵守のための法的措置を講じる」とはどういうことでしょうか。法治国家の常識では、法的なペナルティを課すのはできることを意図的に怠った場合であり、もともとできないことをやらない人を法的に処罰することはありえない。それをするなら政府の「名目成長率目標」も、守れなかったら首相を解任すべきでしょう。

こうみてくると、飯田さんと他の経済学者の意見の違いは「法的措置」の有無に集約されるように思います。マイルドなインフレが望ましく、それを実現するために日銀が努力すべきだという努力目標に反対する経済学者はほとんどいないし、そういう目標は日銀がすでに掲げています。多くの人々が反対しているのは、それを法的拘束力をもつターゲティングにすることです。日銀が目標を確実に実現する方法がないからです。

菅直人氏などの素人がこの区別もできないのはしょうがないが、経済学者は厳密に議論すべきです。特に上のようなあやふやな根拠で「日銀が無限にお金をばらまけば日本経済の問題はかんたんに解決できる」などというプロパガンダを行なうことは、政治家をミスリードし、金融政策を混乱に陥れるだけです。ターゲティングを主張するなら、日銀が国民のインフレ予想をつねにコントロールできるという証拠を示してください。

追記:コメントで指摘されましたが、どういうルールを設けるかによって問題は異なります。たとえば「インフレが2%以上になるまで0金利を解除しない」というルールなら害は少ないが、効果も少ない。むしろ中央銀行の目的関数としては、インフレだけではなく資産バブルや金融仲介機能などへの多面的な配慮が必要だというのがIMFの指摘であり、CPIだけで日銀を拘束することは弊害が大きい。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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