トヨタの信用を失墜させた責任は誰が負うのか? - 北村隆司

2010年03月04日 10:00

下院公聴会での証言を通じて得た私の豊田社長の印象は「有能ではないが誠実な人柄だ」というものでした。

豊田社長が出席した下院の公聴会は厳しい尋問で広く知られていますが、今回は委員長が開会冒頭の挨拶で「証人喚問される前に、尋問の厳しさで有名な当公聴会に自ら出席を申し出た豊田社長の勇気と誠意は、勲章に値する行動だ」と称賛した程で、昨年にデトロイト3大メーカートップを吊るし上げた雰囲気とは比較にならない和やかな雰囲気で始まりました。


処が、時間が進むにつれて状況は厳しさを増し、豊田社長が質問の核心から外れた答弁をだらだらと繰り返し始めると「イエスかノーで簡単に答えて欲しい」と苛立ちを隠せない議員が続出しました。この応答振りが「物事の核心を把握する事が苦手な、頼りない人物」という印象を与えてしまったことは否めません。

社長就任の際「現場に一番近い社長になりたい」と挨拶した豊田社長ですが、質問が現場に近い具体的な問題になればなるほど答えに窮するなど、未だ見習い期間中である事も目立ちました。(それに比べ、隣席に控えた稲葉北米トヨタ社長は、議員の苛立ちを感じ取ると「社長、手短にご回答下さい」と日本語で囁いたり、あまり洗練されない英語ながら、通訳なしに簡潔で具体的な回答をするなど、随所に修羅場をくぐった有能な経営者の片鱗を見せたのが対照的でした。)

こんな豊田社長を、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のラインボー記者は「通訳を使って間を取りながら、問題をはぐらかす用心深い歌舞伎役者の演技」とずるい人物かのごとき報道をしました。然しこの記事を「デトロイトの影響の強いミシガン大学に学んだ彼女の偏見」だと片付ける訳にもいきますまい。

私のような人間から見ると、傍で聞いていても腹立たしくなるようなオハイオ州選出のマーシー・カプター議員等の挑発的で中傷に近い質問にも、興奮もせずに淡々と反省の弁を繰り返す豊田社長の姿には、リーダーのイメージこそありませんでしたが「ずるい演技者」には程遠く思えました。

今回の豊田社長の証言で最も注目すべきは、「第一に安全、第二に品質のトヨタの伝統が、いつの間にか『資本の論理による効率経営優先』に変わってしまい『業容拡大のスピードに人材の養成が追いつかなかった事』が不祥事が多発した最大の原因だ」と繰り返し述べたことです。この発言は明らかに「奥田式経営」に対する強烈な批判です。

空前の好業績の立役者と言われた奥田相談役は社長時代に、トヨタを「品質と手堅いトヨタ」から「資本の論理による効率化と大規模化による好業績」につなげました。しかし、豊田社長の今回の証言が正しいとすれば、奥田式経営がもたらした巨大な利益の陰には「信用失墜」と言う計り知れない代価もあった事になります。

今回の公聴会の批判の矛先は一貫して :
1.「安全と品質」より「利益と規模」を優先したのではないか?
2.「都合の悪い情報は隠蔽する」という企業風土があるのではないか?
3.本社に権力を集中しすぎたため、現場の事情が本社に伝わらず対策の遅れを招いたのではないか?

という最近の「トヨタ経営」に集中しました。豊田社長はこの批判に対して名指しこそ避けましたが「あるべきトヨタの伝統を壊して、『この経営風土』をもたらしたのが奥田式経営だ」と明言したのです。
そうであれば、この際「奥田イズム」を代表する長老達を一刻も早く退陣させる事が、社長が約束した信頼回復の具体的第一歩であるはずです。豊田社長が批判した「奥田式経営」を作り上げ、支持し、或いは信奉してきた先輩達が、最高顧問、名誉会長、相談役、会長、副会長等々の地位に君臨しているようでは、外部に対する説明がつきません。

「税金と人命安全」に極端に敏感な米国議会が、公聴会で国籍や企業に関係なく責任者を厳しく糾弾する事を知る私は、今回の公聴会が日本叩きだとは思いません。寧ろ「税金と人命安全」に対する日本の認識の甘さが突出している現状が問題で、大いに反省する必要があるとさえ思っています。

米国に次いでトヨタを国会に召致するといわれるカナダの会社であるボンバルデイア社は、事故続きの飛行機のメーカーであり、同社の抱える問題と乗客に与える不安はトヨタの比ではありません。日本の国会も、ボンバルデイア社の責任者を招致して、国民の前で徹底的に原因を追求し、安全策の即時実施、リコールの要求、場合によっては賠償も求める位の毅然とした態度をとって欲しいものです。

                     ニューヨークにて 北村隆司

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