デフレについての教科書的解説 - 池田信夫

2010年04月04日 08:49

先日の池尾さんの記事を読んでも、たぶん菅財務相は理解できないでしょう。彼の脳内では「デフレからの脱却」とは「不況からの回復」のことだからです。今週、ツイッターで#defleというハッシュタグでの議論を見て、菅氏を含む素人が何を誤解しているのか、やっとわかりました。


たとえば「それはデフレです。実質賃金が下がることによって国民所得の減少から消費が落ち込み物価が下落します」などとデフレの弊害を語る人物がいる。私が「デフレでどうやって実質賃金が下がるのか説明してみろ」と質問すると、今度は「実質国民所得は下がる」とか言い出す。私が「ピグー効果」を調べてみろというと、「ネットにはデータがない」。

要するに、彼らにとってデフレとは漠然と「貧乏になること」で、日銀がヘリコプターからお札をばらまいてくれれば、それを拾ってコンビニに行って食い物が買える、というレベルで問題を理解しているわけです。もちろん経済学者にそんな人はいないでしょうが、菅氏の理解はおそらくツイッターに近い。教育も私の仕事なので、標準的な理解をMankiw(pp.329-331)にしたがって書いておくと、

デフレには安定化効果と不安定化効果がある:

  • 安定化効果:物価の下落によって実質賃金が上がり、保有資産の実質残高も増える(ピグー効果)。

  • 不安定化効果:実質賃金が上がるため、企業収益が悪化する。実質債務も増えるので、債務者から債権者への所得移転が起こる。この効果は社会的に中立だが、債務者(企業)が設備投資を行なっている場合が多いので、投資不足が起こる。

したがって安定化効果と不安定化効果のどちらが大きいかは、先験的にはいえないが、デフレ予想が定着すると投資が抑制的になろう。しかしデフレが破壊的な効果を示すのは、1930年代のように中央銀行が金融を引き締めて金融システムが崩壊した場合で、現在ではその懸念はない。

これが教科書的なデフレについての考え方です。他方インフレになると、逆に実質賃金が下がるので、企業の雇用調整を容易にする効果はあるでしょう。今の日本ぐらいのマイルドなデフレが大恐慌のときのようなデフレ・スパイラルをまねくことはありえないが、金利がゼロになると金融調節が困難になるので、1~2%のインフレを適切と考える中央銀行が多い(日銀もそういう目標を公表している)。

以上については、ほとんどの経済学者が合意しているでしょう。マイルドなインフレが望ましいという努力目標については、プロの間に意見の違いはほとんどないが、ターゲティングというのは目標に法的拘束力をもたせることなので、その実現手段が明らかでなければならない。論争が続いているのは、その目標が実現できるのかという点です。日銀がマネタリーベースを増やしても、ゼロ金利状態では効果がないという点も一致しているので、問題はどうすれば日銀がインフレ予想を起こすことができるのか、という点につきます。

ところが「日銀がこういう政策を取れば、インフレが起こると皆が予想する」という政策を示した経済学者がいないので、議論が成立しない。飯田泰之氏は「皆を確信させるための方法を考える」そうだから、「日本経済をかんたんに復活させる」などというお手軽な政策提言は、その方法がわかってからにしてほしいものです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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