「子ども手当で拡大する地域間格差」― 務台俊介

2010年04月13日 17:19

 子ども手当がいよいよ実現することになった。手当てを受けるご家庭は今か今かと待ち焦がれているかもしれない。しかし、政府が現金を大量にばら撒くことは尋常ではない。将来に亘り財源のめどを立て、政策目的をはっきりさせ、制度に悪乗りする人たちがいないように制度を練って初めて実現が許される。

 平年度化すると5兆3千億円の財源が必要とされている。財政学の常識として恒久的政策には恒久的財源が不可欠とされているが、そのような懸念は今の政府には存在しないようである。政府の無駄を排除すれば財源はいくらでもあると断言した路線をひたすら突き進んでいるようである。事業仕分けで明らかになったことは、民主党が野党時代に国民に訴えていたような巨額の無駄の存在は蜃気楼であったということだ。結果として、子ども手当の財源は子供たちが将来に亘って返していくという皮肉な結果となる。その負担者となる子供たちには、今は選挙権は与えられていない。


 こうした政策は一度実施すると引っ込めるのは容易ではない。恐らく、国政選挙がなければこうした巨額ばら撒きはマニフェストとして政治の表舞台に出てくることはなかったであろう。子ども手当の政策目的は、「少子化対策」でも、「子育て支援対策」でも、「景気対策」でもなく、明らかに「選挙対策」なのである。

 社会保障の分野に携わっている多くの人たちは、子ども手当の支給による財政圧迫で他の社会保障が大きな制約を受けることを懸念している。看護師さんたちの団体は、過酷で劣悪な医療現場の現状を改善してほしいと願っているが、子ども手当に財源が吸い取られてしまうことを懸念している。子育て世代の母親たちも、その多くは、現金をもらうよりも保育所整備、学校給食の無料化、副教材費の無料化、奨学金の拡充などの現物給付としての子育て支援サービスの拡充を期待している。子ども手当のばら撒きでそれらのサービスが大きな制約を受けることを心配している。

 政府の役割とは、本来、個人ベースでできないことを集合的にやれるところに意味がるはずである。所得制限も何も無しにバラマキにより政府の財源を個人に還元する今の政府の姿勢は国の将来に大きな禍根を残す。
ましてや、日本国内に住所を有する外国人が母国に残している子供にまで子ども手当が支給されることは、国際的友愛精神も行き過ぎと言わざるを得ない。子ども手当目当てに途上国から日本に働きに来る人が増えることは明らかだ。

 ところで、私は、巨額子ども手当の支給が、大都市地域と地方の格差を拡大させることを特に懸念する。子ども手当は当然のことながら中学生までの子供の数がベースとなる。子供の数が多いのは大都市を抱える地域である。東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、埼玉県、千葉県、兵庫県、福岡県といった大都市地域に子ども手当の支給が集中する。私のラフな試算では、子ども手当が平年度化すると、東京都には毎年5000億円程度、大阪府、神奈川県には4000億円程度、愛知県には3500億円程度、埼玉県には3250億円程度、千葉県には2750億円程度、兵庫県には2600億円程度、福岡県には2300億円程度が支給されると見込まれる。上位8都府県で支給額の48%を占めることになる。これに対し、子供の数が少ない地方は、鳥取県が最少の270億円程度、島根県、高知県が320億円程度など少額の支給となる。

 地方交付税は地域間の財政調整を行い地域間格差を埋めるものであるが、地域間の財政力の多寡を無視し、純粋に子供の数で巨額の手当を配ることで、結果的に地域間格差が拡大することになる。

 恐らく民主党も子ども手当により地域間格差を広げようという意図はなかったであろう。しかし、制度というのは常に意図せざる結果をもたらすものである。だからこそ制度を立案実行する際には、その持つ意義のほかにそれがもたらす副作用なども十分に吟味して実現の可否を検証しなければならない。今回は「政治主導」の掛け声の下、そのような議論はかき消されてしまった。

 私の故郷の長野県からは、高校生が卒業して大学進学をする時点で、85%もの若者が都会に出て行く。都会の子供の学生生活を支える為に地方の親は巨額の仕送りを行っている。謂わば、都会への大学進学というメカニズムを通じて地方から都会への巨額資金移転が起きている。それに加えての子ども手当の都会への傾斜配分である。かてて加えて、事業仕分けにより、地方で行われている各種プロジェクトが、経済効率性の判断基準の下に延期・廃止の憂き目にあっている。

 政権交代により民主党のマニフェストが機械的に実行されることにより、大都市と地方の経済格差がさらに拡大することをどの様に考えるか、まじめな政策論争が求められる。
(務台俊介 神奈川大学法学部教授)

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