自由の理由 - 書評 - ハイエク 知識社会の自由主義

2010年04月15日 19:00

著者より献本御礼。

その時は書評しそびれてしまったのですが、

のように電子化もされた今は、本書を紹介するのに最適な時期かもしれません。本書の価値は、出版当初より格段に上がったのですから。本書は「自由」という大く抽象的な話題を扱った一冊であると同時に、「たとえば電子書籍に対し、どのようにふるまうべきなのか」という小さく具体的な問題に対する答えでもあるのですから

本書「ハイエク 知識社会の自由主義」は、表題通りフリードリヒ・ハイエクの伝記であると同時に、ハイエクという存在を通して著者の哲学を語った一冊。

目次

第1章 帝国末期のウィーン
第2章 ハイエク対ケインズ
第3章 社会主義との闘い
第4章 自律分散の思想
第5章 合理主義への反逆
第6章 自由主義の経済政策
第7章 自生的秩序の進化
第8章 自由な社会のルール
第9章 二一世紀のハイエク

ハイエクとはどんな人だったのでしょうか。

経済学者ハイエクに関してなら、このビデオで充分かも知れません。

Greg Mankiw が紹介していただけあって、実によくできているのですが、ハイエクは「単なる」経済学者としてはあまりに大きな存在で、このビデオではさすがにそれはわかりません。

ハイエクはなぜ偉大なのか?

「なぜ自由が必要なのか」という問いに対して決定的な答えを出したからなのです。

本書はそれを新書まるまる一冊使って説明していますが、答えそのものは一言にまとまります。私流にまとめるとこうでしょうか。

We need freedom because we are not smart enough to give it up.

自由が必要なのは、それを放棄できるほど我々は賢くないからだ。

ハイエク自身の説明は、こうです。

PP. 91-92

もし全知全能の人がいて、現在の希望ばかりではなく、将来の欲求や欲望も達成されるのかどうかを知っていれば、自由の必要はほとんどない。逆に、個人の自由は将来についての予測を完全に不可能にする。したがって自由は、予測も予言もできない未知の可能性を開くために必要なのだ。[中略]人々が知っていることはあまりにも少なく、とくにだれがもっともよく知っているかを知らないから、われわれは多くの人々の独立した行動と競争的な努力によって、望ましい未来が自発的に生まれることを信じるのだ。[1960:29]

これは、ずいぶんと痛い結論です。自由が必要なのは自由な状態が幸福だからではなく、どうやったら幸福になれるのか我々が知らないからだというのですから。

しかし、日常生活を振り返ってみてください。幸福は自由が捨てられた瞬間に訪れていませんか?「君を幸せにするよ」というのは文字通りに捉えれば「あなたの自由を私が取り上げる」という宣言ですよね?それで君が幸せになれる–と君が判断できる–なら、自由なんて不要ですよね。

でも、もし彼/女があなたを幸せにしてくれなかったら?

「望ましい未来が自発的に生まれる」ためには、「別れる自由」が必要となりませんか?

自由は、痛い。

でも自由がなければ、痛みから逃れる自由もなくなってしまう。

本書がまるまる新書一冊費やしてそのことを語っているのは、この事実を受け入れるのにそれだけのページ数が必要だということかも知れません。

それでは、我々がこの自由の痛みから逃れる術はあるのでしょうか?

こういう時にはSFです。「自由意志こそ不幸の源なら、自由意志を外科的に取り除いてしまえばいいじゃないか」という大胆な設定をもってきたのが、伊藤計劃の「ハーモニー」。我々の子孫がもっと賢くなって、市場を必要としない”Economy 2.0″を達成した未来を描いたのがCharles Stross の「アッチェレランド」。どちらも傑作です。本書を読んだらぜひ。

私自身は、たとえ Economy 2.0 が到達したとしても、ハイエクの痛い結論は成り立っていると考えています。そして Economy 2.0 はハイエクとは矛盾しないとも。ハイエクは自由なしに我々が幸せを見つけられるほど賢くないという一方、我々が完全に無知だなんて一言も言っていないのです。次の日食がいつどこであるかなら我々にだってわかるのです。予測できるものは決して少なくないのです。

そういったものを尽くした上での、自由だとハイエクは言っているのです。

P. 200

われわれはハイエクほど素朴に自生的秩序の勝利を信じることは出来ないが、おそらくそれが成立するよう努力する以外に選択肢はないのだろう。

選択肢を探し続けるのが、唯一の選択肢。

それが、自由の奴隷たる我々の役目なのです。

Dan the Prisoner of Freedom

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