韓国の後追いでは勝てそうにない - 大西宏

2010年04月26日 13:39

昨日のテレビ朝日に、ソフトバンクの孫社長、NTTドコモ時代にiModeを生んだひとりであり、現在はさまざまなIT関連企業の社外取締役をやっていらっしゃる夏目慶応大学教授、そして仙谷大臣の対談があり、視聴者の人にも分かりやすい、面白い議論であったと思います。


仙谷大臣の韓国企業を例にしたお話がありましたが、経済産業省がまとめた「日本の産業を巡る現状と課題」がベースとなった話だと思います。しかし、確かに韓国は「選択と集中」によって、産業界を再編し成功したのですが、あきらかに韓国は経済危機を乗り越えるために、日本を見本とし、日本を追い抜くためにはどうすればいいかということから生まれたものだと思います。よく現状がまとめられているレポートですが、ちょっと本当の焦点は違うのではないかとも感じています。また経済産業省のあなたたちはどう貢献するのかも見えてきません。参考のためにリンクを張っておきます。
日本の産業を巡る現状と課題(PDF資料)

最近、日本や韓国が取っている戦略を、アジア型の開発戦略といいはじめていますが、工業化から情報化の過渡期に成り立ったとはいえ、これからも成長のエンジンとして効くかと言うと、極めて心許ないのです。

韓国のとった戦略は、「ものづくり」の高度化、効率化に照準を当てた競争戦略でした。当然標的は日本です。かつて造船でやったのと同じ発想だと感じます。
このレポートや仙谷大臣は、韓国と同じ発想で、また日本も経済界の統合再編をやり、対サムスンとの競争力を高めようとでもいうのでしょうか。

それは違うと思っています。日本は確かに欧米が放棄したに等しい「ものづくり」という隙間に入りこんで大成功をしました。

しかし、はっきりさせておかなければならないのは、「ものづくり」を極めたところで、現代は、競争の焦点が変わって来ており、日本が勝ち続けていた時代に戻ることはありません。
現代は、情報通信革命という産業革命のまっただなかにいて、猛烈な勢いでグローバル化してきたということを踏まえた時代だということを直視すべきなのです。ものづくりだけに視点を置いているとこの時代の流れから取り残され、やがて勝てるのは、部品と付加価値のある素材しかない国になってしまいそうです。

誤解して欲しくないのは、ものづくりを決して否定しているいるわけではありません。それどころか、情報通信革命は、さらにものづくりの高度化を促します。

孫さんは、モノが頭脳を持たなければ付加価値がとれないとおっしゃっていましたがその通りです。もっと正確にいうなら、ケーブルや無線という神経でつながなければ付加価値がでてこない、そして付加価値は、人と社会とそれらのつなぐ舞台をつくったところが握るということでしょう。
いまアップルやグーグルが部分的にやっていること、あるいはさらに拡大してやろうとしていることがそれです。

電力会社の人から、まだ世の中がADSLが中心だったころに、実は光ファイバーはほとんど電力網に整備されていて、あとはそれぞれの家庭と家の前の通っている光ファイバーをどう結ぶかに過ぎないという話を伺ったことがありました。それがインターネットの普及で、どんどん電力網と家庭とがつながっていきました。それに近い話かも知れません。

なにも空想の話をしているわけではありません。実は、すでにテレビにおよばず、冷蔵庫、掃除機、電子ジャーにいたるまで高度に電子化された頭脳を持っているのです。自動車も、今やコンピュータが制御している時代です
ただそれぞれは単独で存在しているに過ぎません。かつてのパソコンと同じで、スタンドアローンの状態のままだということです。

テレビは、電波で結ばれているとはいえ、いくらデジタル化で放送局の番組を双方向化するといっても、本質的には流されている放送を見る機械の粋をでていません。

パソコンの発展を考えてください。情報通信革命が起こり、今は、パソコンは通信によってインターネットにつながり、また社内では社内のイントラネットにつながって、かつてとは比較にならない仕事をやっています。情報通信革命によって、「できること」が増えたのです。

情報通信革命とは、すでに頭脳を持った機器に神経細胞を張り巡らせて、それぞれをつなぐことです。つなぐ舞台をつくることです。それによって、さらにものづくりは高度化していきます。しかし逆はありません。ものづくりで勝てる体制を整えたところで、情報通信というステージの競争のなかでは、付加価値の大半は、情報通信によって、それらの機器を利用して、人と社会をつなぐインターフェイスやプラットフォームをつくったところが持って行くということです。

情報通信革命と言われて久しいのですが、確かに日本でもかつてとは比較にならないぐらい発展をしてきました。しかし、世界を見回したときに、日本が主導権を取っているとはとうていえないお寒い状況です。

そこでどのようにして、この産業革命に遅れた部分を取り戻すか、あるいは、世界、またアジアで優位なポジションを握り、経済の成長を勝ち取るのかですが、これを語りはじめると論文みたいになるので、ひとつの例で考えて見ましょう。孫さんが医療分野に言及をされていました。

高齢化にともなう医療負担の増加というリスクを負っているのは日本だけではありません。情報通信とものづくりが融合した技術革命で、医療の分野で、やがて世界に貢献し、また日本がリーダーシップを握ることも可能なのではないかと素人ながら考えています。

仙谷大臣が、医療のIT革命は、コンピュータにカルテを書き込む人の雇用が生まれるという発言をされたのですが、それには思わずのけぞってしまいました。あまりにも現代の技術を知らなさすぎます。

孫さんがあわてて、商品名はださずにiPadのタッチ操作の話をされ、誰でも使えるようにできると説明されていましたが、今のパソコンの姿を固定的に考えるのはどうかと思いますね。

そんな話ではないのです。この分野は素人だとお断りした上で、素人でも考えられることを書いてみます。

もうすでに現在でも、大きな病院に行くと、お医者さんはカルテをすべてパソコンに打ち込んでいます。そうではなく、例えば、ICチップが患者さんを特定し、体温から、脈拍、検査結果など、さまざまな情報がすでに情報通信によってカルテには書き込まれているということです。それはどこの病院に行っても、見ることができるようになります。二重の検査も必要ありません。

入院をすると看護師さんが巡回してきて、経過をチェックして、今は手でまずは書き込んでいますが、それも自動化できるはずです。
体温計も、体重計も、脈拍計も、血圧計も、このカルテとつながっていて、結果はすでに書き込まれているので、なにも書き込む必要はありません。
それらの情報が書き込まれたキンドルのような電子ペーパーでも、タブレットPCでもいいのですが、電子カルテを見ながら患者と接します
書き込むのは、観察した結果のレポートだけです。しかも音声を通信でつなぎ、インターネットのあちら側で認識処理させればもっと効率化されるかもしれません。

あっちの病院、こちらの病院を渡り歩き、医薬品を過剰に買って、服用していることも問題になっていますが、それもそれぞれの人にIDをつけて記録させれば防げます。
さらに、ご本人の病状にあわせ、散歩したかとか、体操をしたかとかのチェックをそれこそ通信でプッシュ型で知らせ、健康管理を促すことも可能でしょう。
問題が起これば、病院なりかかりつけの医院にアラートが届きます。
さらに病院のレセプトから支払いまでの業務の効率的なシステム化、地域医療とセンターとのやりとりも一元化できます。

おそらく医療に関係する企業ではそれぐらいのことは想定し、開発のターゲットにはしているのではないでしょうか。

問題は、医療が典型ですが、それらを導入するかどうか、また予算として,認めるかどうかの主導権は国が握っています。法律を変えないとできないことが多いのです。逆に言えば。法律を変え、予算をつけさえすれば、医療の情報通信革命は促進できます。
おそらく医療関連の「ものづくり」も「システムづくり」も飛躍的に発展するのではないでしょうか。「ものづくり」ができない国にはそういった高度な医療のシステムはできません。
医療の情報通信革命がパッケージ化されれば、海外でもパッケージ毎売れるのではないでしょうか。

日本ができる成長戦略は、ひとつには、古いシステムを温存する規制や政府の関与をできるだけなくし、さまざまな企業がアイデアで事業を興せる環境を整備することがあります。しかしもうひとつ大切なのは、こちらのほうが即効果があると思うのですが、確実なニーズのある分野、つまり医療や介護、効率化によってできるだけ負担の軽減をはからなければ破綻しかねないという分野に集中投資する戦略があります。

前者は、創発型とすれば、後者は資源集中による誘導型です。これは矛盾しません。ネットでの議論は、前者の創発型をすべきだというのが多いのですが、分野によって使い分けること、また組み合わせで賢くやればいいのではないでしょうか。
とくに政府が握っている分野ほど、遅れており、それだけ変革の余地が大きいので、後者の効果は大きいと思われます。マイナスをプラスに転換できるのですから。

すくなくとも、政治家は、もっとこの情報通信革命を学に、体験しないといけないのではないでしょうか。そうでないと議論かかみ合いません。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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