凋落した日本の一人当たりのGDPと地方分権 ― 藤沢数希

2010年04月29日 02:30

日本は少なくとも経済的には世界で最も豊かな国のうちの一つだった。一人当たりのGDP、つまり国民の平均所得は常に世界のトップクラスであった。しかし、それも昔の話のようである。失われた20年の間に一人当たりのGDPは毎年順位を落とし、現在では先進国の中で下の方になってしまっている。満員電車の通勤やうさぎ小屋と揶揄される住環境は世界から馬鹿にされ、GDPのような数値には現れない生活の豊かさは、他の諸外国に比べて劣るといわれてきた日本だが、今やそのGDPさえも先進国の中では下の方になってしまったのである。名実ともに日本は貧しくなったのだ。

下の図は購買力平価で見たドル建ての一人当たりのGDPである。人口が100万人以下の都市国家(ルクセンブルクやマカオなど)は除外してある。


一人当たりGDP、購買力平価 (PPP) ベース、USD
出所:World Bankのウェブ・サイトより筆者作成

スイスやノルウェイなどは一人当たりGDPランキングでは常に最上位にくる常連だが、実際にどれだけモノやサービスを購入できるかを表す購買力平価(Purchasing Power Parity, PPP)で見ると、日本の順位はシンガポールや香港などよりはるかに下になってしまうことがわかる。スウェーデン、フィンランド、デンマークなどの北欧諸国も日本よりも一人当たりのGDPが高い。もちろんアメリカも日本より上である。

さてGDPのランキングだが、上位の国の人口を見てみると興味深い事実が浮き彫りになる。人口が500万人程度の国が上位に集中しているのである。どうやらこれぐらいの人口規模が21世紀の知識社会での成功の秘訣のようなのである。

一人当たりGDPと人口の関係
出所:World Bankのウェブ・サイトより筆者作成

外交や国防のように国が大きければ大きいほど有利なものもある。また年金や医療保険のような仕組みは、加入者数がある程度いないと成り立ちにくい。科学技術に対する投資なども国の規模が大きい方が有利になるだろう。その一方で国の規模が大きすぎると変化に対応するのがどうしても遅れてしまうし、既得権を得た大小さまざまな団体が政治力を持ち国全体での最適化の邪魔をしてしまう。変化の激しい現代社会では、規模が大きすぎるのも大問題である。そこで500万人ぐらいの規模が最適なサイズのようなのである。

その例外はアメリカ合衆国なのだが、別の見方をするとアメリカはまさにその程度の規模の行政単位だともいえるのである。アメリカは、ある程度の立法権や徴税権まで有する各州政府の連邦国家なのである。国防や金融政策、外交などはスケールメリットを大いに活かしてアメリカ合衆国として活動するが、産業政策や教育、福祉などは各州に裁量が委ねられているのである。各州がやはり500万人程度の規模なのである。ある意味で大国のパワーと小国の機動性を併せ持つ国家がアメリカのであろう。「アメリカ主導の市場原理主義は崩壊した」などという言説が盛んに聞かれたが、現代の知識社会で、世界中から優秀な頭脳を集める大学や研究機関が集中し、最先端のベンチャー企業が林立するアメリカという国の優位は今後も全く揺るがないように思われる。

以上のような事実を見てみると、日本における地方分権の必要性が浮かび上がってくるのである。日本をベルギーやシンガポールぐらいの大きさに切りわけてしまえばいいというアイデアだ。大前研一などは昔から道州制の導入を主張していたし、最近では府民の絶大な支持を得ている大阪府の橋下徹知事も道州制を主張している。日本を道州にわけて、各道州に立法権や徴税権まで含めた自治権を国から大幅に移すのである。産業政策や、教育、福祉などは各地方で行い、国は外交や安全保障、金融政策などのマクロ経済政策に特化するのである。

現在の日本の政治家は、各選挙区や利権団体の利益を代表している。彼らはいかに多くの利益を自分の選挙区や自分の支持団体に誘導するかを競っている。税金のぶんどり合戦をしているのだ。そしてたくさんぶんどってくる政治家がよい政治家である。その結果が今の日本経済の停滞である。

たとえば、つい最近も、鳩山首相は一部の少数政党や選挙区の都合で、日米同盟という日本の安全保障の根幹に関わる極めて重要な二国間関係をめちゃくちゃにしてしまった。日本では首相でさえ国全体のことは全く考えていないのである。そこにあるのは政局が第一という方針だけだ。また、日本郵政をめぐる騒動を見ていても、現政権が国民全体の利益をまったく考えていないことは明らかだ。そこにあるのは支持団体の都合だけである。

道州制により各道州が市民、消費者のための政策競争をして、国は地方にできないことだけに集中するのが本来のあるべき姿であり、地方分権は21世紀に日本が繁栄するための必要条件のように思われる。しかし、これは国の形を根本的に変える構造改革であり、法改正も膨大なものになるし、その過程で様々な利害の対立が起こるだろう。その実現は残念ながら政治的には大変むずかしいといわざるをえない。

参考資料
道州制に移行しなくてはいけない真の理由、大前研一
構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌、竹中平蔵
サルでも分かる構造改革入門、金融日記

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