一人の英雄で韓国は救われる --- 長谷川 良

アゴラ

韓国の珍島沖で起きた旅客船「セウォル号」沈没事故で乗船者475人中、4月25日現在、死者181人で、121人は依然行方不明だ。

事故調査が進められているが、船長ら乗組員が沈没する2時間前にボートで脱出する一方、船客に対して適切な救援活動を行っていなかったことが判明し、遺族関係者ばかりか、韓国国民を怒らせている。

「韓国は3等国家だ」「後進国だ」といった自嘲気味の声が、国民の間から聞かれることは、悲劇を一層、悲しくさせている。


もし、乗組員の一人でも「船客を救済するために、犠牲になった」ということが判明すれば、国民はどれだけ救われただろうか。自分を犠牲にして他者を救った一人の人間がいたならば、「セウオル号」沈没の悲劇にも救いが出てくるからだ。韓国国民はその乗組員によって救われたかもしれない。
 
韓国メディアも自嘲記事を書くのではなく、その一人の英雄がどうして自分の命を犠牲にしても他者を救ったのか、その秘密を解明するするためにペンを走らせることができたはずだ。中央日報のように、「わが国は3等国家だ」という社説を書かなくて済んだはずだ。

朝鮮日報日本語電子版は25日、「今回の惨事が典型的な『後進国的人災』だった状況が続々と明らかになり、インターネット上は『2時間にわたり沈みゆく船を眺めているだけで、子どもたちを失った国に希望はない』といった嘆きの声であふれた」と書いている。書き手も読み手にも辛い内容だ。

第2次世界大戦中、コルベ神父はアウシュビッツ収容所で1人のユダヤ人の代わりに自ら死の道を選び、独房で亡くなった。同神父の話は今なお多くの人々を感動させている。同神父のように、韓国の沈没事故で旅客を救うために犠牲となった乗組員は一人もいなかったのだろうか。

先の朝鮮日報日本語版は「あるネットユーザーは『壬辰倭乱(文禄・慶長の役)では(日本が攻めてくる前に)王が土城を捨てて逃げ、6・25(朝鮮戦争)のときには指導部が漢江の橋を落として逃げ、今回は船長が乗客を捨てて逃げた』と書き込んだ」と報じている。すなわち、韓国では指導者や責任者が英雄ではないのだ。

国家を救い、国民を奮い立たせ、その民族の名誉を守ってくれた英雄を韓国は今最も必要としている。その英雄は政治家や軍指導者でなくてもいい。無名な一人の市民でもいい。自分の命を犠牲にして他者を救ったという人間の証が必要なのだ。英雄の存在は韓国を救うのだ。そして、その数(英雄)が多いほど、国民は国家に誇りを感じるのではないだろうか。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。