日本のネットコミュニケーションはクールか? --- 中村 伊知哉

アゴラ

9年目を迎えたNHKの番組「クールジャパン」。ぼくはご意見番の一人なのですが、日本に住む外国人たちが鋭い切り口で日本を語るその討論に、いつもぼくのほうがスタジオで勉強させられています。


先日のテーマは「ネットコミュニケーション」。ぼくの本業でありながら、外国人の多角的な議論を受けつつ、誰にでもわかるようにコメントするのは至難でした。これまであまりこの番組のことは語ってこなかったのですが、せっかくなのでメモしておきます。◯はクールジャパン(CJ)での討論、●はぼくのコメント。

◯CJ:日本のネットのコミュニケーションって?

●今でこそスマホで世界の人はケータイでネット使ってますけど、日本でケータイとネットがくっついたのは15年前のことで、圧倒的に早かったんです。それからずっと世界をリードするネットの使い方を育ててきているんですよ。

◯CJ:アンケートを取ってみると、Twitterは学生の90%、facebookは社会人の75%が利用。よく使っています。ただ、外国人は、日本のこんな点が不思議だといいます。
・日本人は食べ物の写真をよく投稿する。3食投稿する。
・Twitterを通じて友だちを作る。相手を信頼して実際に会う。
・ニックネーム・匿名で投稿する。
・面と向かっては話さないのに、ネットでは積極的だ。
・なんでもかんでも「いいね!」を押す。
・自分の意見じゃなくて、人の役に立つ情報を書く。 

●総務省によると、ネットで実名で書いてる日本人は5%。95%の人は匿名かハンドルネームで書いているんです。

日本人の匿名好きには2つの要素があると思います。まず自己主張が苦手、ということ。知識や情報をひけらかしたり、相手を理屈でへこましたりするのが美徳に反します。

もう一つは、本音と建前を使い分けること。建前の世界で生きてきたんです。ネットだと本音が言えるんだけど、それはまだ自分を隠してでないと言えない。

でも大事なことは、ようやくネットという、匿名であれば本音を発信できる手段を得た。すると世界一の情報を発信するようになった。建前の世界だったからこそ、日本はネットで発信するインセンティブが高かったんだと思います。

◯CJ:LINEに注目。親子や友だちとスタンプでコミュニケーションを取り合っています。漢字文化、マンガ・アニメ文化が背景にあるのでしょう。

●スマホ以前の携帯電話の時代にも、日本ではデコメというメールに絵を載せるのが好きだったし、絵文字や顔文字も世界に類のない発達をみせていました。

日本は文字情報以外の表現が豊かな国なんです。家紋のようなマークで表したり、擬音語や擬態語で伝えたり、非論理的なコミュニケーションが得意。言葉を補完するものとしてスタンプや絵文字を使いたがるんです。

その補完的なものがコミュニケーションの主役になったというのがLINEです。こうした日本人的なコミュニケーションは想像力も必要なんですが、アジア圏でLINEが流行ってるというのは、その楽しさが外国人にもだんだん理解されてきたということだと思います。

◯CJ:シニア向けSNSがすばらしい。リタイアしたひとがこれで生き生きと交流しています。海外ではシニア世代はあまりSNSを使いません。
 
●ある生命保険会社の調査では、日本の60代70代でSNSを利用する割合は35%なんですって。3人に一人はやってる計算。

会社をリタイアしたシニア層は、特に人の役に立ちたい、他人に認めてほしいという考えが強いんでしょうね。しかも時間はたっぷりある。人と人を結びつけて、その絆を再生するSNSは、そういうシニア層にこそ適していると思うんです。どんどん使いこなしてほしいですね。

◯CJ:改めて、日本のネットは?

●ネットが普及したことで、日本のコミュニケーションの特徴が際立ってきたと思います。匿名好きとか、絵文字とか、シニアが熱いことだとか。でもネットの普及ってせいぜい10数年ですから、まだまだこれから発展していきます。

ネットのコミュニケーションで日本を元気にしましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。