タレントに対する「恋愛禁止ルール」は有効か?

TAKAHIROさんとの結婚直後から「損害賠償」が取りざたされた武井咲さん(公式サイトより:編集部)

昨今の武井咲さんの例をはじめ、AKB48のような女性タレントには、所属事務所から恋愛禁止ルールが課されているようです。

契約書に明記されているか否かは不明ですが、本稿では契約書に「25歳までは恋愛しない」と明記されており、タレントがそれを認識しつつ契約したという前提で論をすすめていきます。

もし、恋愛禁止条項を破って事務所に損害を及ぼした場合、当該タレントは賠償責任を負うことになるのでしょうか?

通常の契約違反であれば一定の範囲で損害賠償義務が発生します。
しかし、「恋愛禁止条項」は民法90条に違反して無効になるのではないかという点が問題になると考えられます。
民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と規定し、男女間の典型的な例として「愛人契約」や「売春契約」などは本条によって無効とされます。

もし契約違反で事務所に提訴されたとしたら、タレント側は次のような主張をすると推測されます。

1 恋愛は人間本来の本質的権利であり、それを侵害する「恋愛禁止条項」は民法90条により無効である。

2 愛人契約や売春契約のように肉体関係を強要する契約が無効であるなら、その裏返しである恋愛を禁止する契約も無効とすべきである。

3 芸能界において事務所はタレントより圧倒的な強者であり、タレントは事務所の意向に事実上逆らうことができず「恋愛禁止条項」を受け入れざるを得ない立場にある。

このような力関係を斟酌すれば、「恋愛禁止条項」はタレント本人の自由意思に基づいて締結されたとは言い難い。

これに対し、事務所側の反論は次のようなものになるでしょう。

1 恋愛は人間本来の本質的権利であると主張するが、タレントという特殊な職務を遂行する上で一定期間、一定限度で恋愛を禁止することは民法90条に違反しない。
これは、海外派遣された自衛隊員が、派遣期間中著しく恋愛を制限されることに鑑みても明らかである。

2 肉体関係の強要と恋愛禁止は決して表裏の関係ではない。
前者は対象者の心身に積極的な打撃を与えるが、後者はあくまで消極的なものであり侵害の程度には雲泥の差がある。

3 事務所とタレントの力関係と主張するが、タレントは自ら積極的に事務所に自身を売り込み、自らの世間的な評価を高めることを熱望した。「恋愛禁止条項」の遵守が嫌であれば事務所加入を自由に拒絶できたし、それによって事務所は他のタレント志願者にチャンスを与えることができた。

このように、タレントは「恋愛禁止条項」を十分承知の上で、自らの自由意思で熱望して本契約を交わしたのに、世間的評価が高くなったからといって当初の契約を覆すのは信義にもとる行為である。

双方の主張は私が勝手に考えたものなので、実際に訴訟になれば争点も主張も大いに異なるかもしれません。
さて、みなさんが裁判官になったとして、どちらに軍配を上げるでしょう?

もし、私が裁判官であったとしたら…タレント個人が受けていた金銭的利益が大きければ、一定の範囲内で賠償責任の負担を命じるかもしれません。もちろん、これは私の勝手な主観的判断に過ぎません。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。