日本経済を窒息させる「国家統制の罠」

池田 信夫


今の日銀の政策をみると、こういう誤解が出てくるのはしょうがない。「新自由主義」が何を意味するのか知らないが、その元祖とされるフリードマンが提唱したのは「国家統制の金融至上主義」の逆である。彼は政府の裁量的な財政・金融政策を否定し、マネタリーベースの増加率を固定するルール(k%ルール)を提唱したのだ。

その目安は実質成長率で、たとえば成長率が2%なら、日銀はマネタリーベースを毎年2%増やす。これは中央銀行の裁量によらない機械的ルールなので、コンピュータがやってもいい。1980年代にFRBのボルカー議長が採用したのはk%ルールではなかったが、結果的には「マネタリスト」が勝利した。それは自然失業率という革命を起こしたのだ。

この革命を知っているかどうかで、経済を見るセンスが決まるといってもよい。政府は短期的には景気対策でGDPを増やすことができるが、長期的にはインフレで相殺されて意味がないので、政府は経済から退場すべきだとフリードマンは警告した。それは「新自由主義」という特殊な思想ではなく、経済を市場メカニズムにまかせる資本主義の原理である。

ところが保守主義を自認する安倍首相も、金融政策については「日銀が2%のインフレ目標を2年で実現する」という黒田総裁の「国家統制主義」を進めた。それはフリードマンの非裁量的ルールとは似て非なるものだ。中央銀行が計画を立てて「あらゆる政策手段を動員して」それを実現する統制経済は、失敗が約束されていたのだ。

いま日本に必要なのは、このような国家統制で窒息した経済に活力を取り戻し、新しい企業を参入させる資本主義だが、政治家も役所も企業もそれを理解していない。10月からのアゴラ経済塾ではフリードマンをテキストにして、日本で資本主義を機能させるには何が必要かを考える。