【映画評】ポルト

ポルトガル北部に位置する港湾都市ポルト。その日暮らしをしている26歳のアメリカ人ジェイクは、この異国の地になじめず孤独を感じていた。32歳のフランス人女性マティは考古学を研究する学生。発掘現場で互いの存在を知り、夜のカフェで偶然出会った時、ジェイクは思い切ってマティに話しかける。マティはジェイクに引っ越しの手伝いを頼み、互いに強く惹かれあった二人は、その夜、一夜を共にする…。

異国の地で出会ったアメリカ人青年とフランス人女性の恋の行方を描くラブストーリー「ポルト」。リスボンに次ぐポルトガル第二の都市ポルトは、ポートワインで有名な港町だ。ポルトガル映画界の巨匠マノエル・デ・オリヴェイラの出身地で、この監督は同地のドウロ川を印象的に取り込んだ美しい映像で綴る作品を多く作っている。そんな古都ポルトの“観光映画風ではない”魅力的な風情が本作の最大の特徴だ。美しい夜景や、霧に煙る古い石畳などの街並は、おしゃれというより、どこか懐かしさを覚えるノスタルジーに満ちている。

生涯で忘れられない情熱的な一夜を過ごした男女の愛を描くが、ストーリーは、あってないようなものだ。3つのパートに分かれていて、最初はジェイク、次にマティ、最後に二人の視点から描かれる。ジェイクには運命だと感じた恋も、マティには通り過ぎた一瞬の愛に過ぎない。それでも、時に厳しい現実を生きるために、あの美しい思い出は二人にとって必要な糧だったのだろう。ドキュメンタリー出身のゲイブ・クリンガー監督は、劇映画はこれが初めてだそう。80分にも満たない短い作品は、映画というよりポートレイトのようで、訴求力は弱いが、製作総指揮を務めるジム・ジャームッシュのテイストにも共通する詩的な美しさは特筆だ。2016年に不幸な事故で27歳の若さで亡くなった俳優アントン・イェルチンに捧げられていることが、すべてのことが移り変わる人生の物悲しさを伝えているかのようだった。起承転結の分かりやすい映画に飽きたら、こんな作品に触れてみるのも悪くない。
【55点】
(原題「PORTO」)
(ポルトガル・仏・米・ポーランド/ゲイブ・クリンガー監督/アントン・イェルチン、リュシー・リュカ、パウロ・カラトレ、他)
(まったり度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年10月18日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。