日中文化コミュニケーションの授業で、英語学科の1年生女子が「和歌」にについての研究発表をした。てっきり『君の名は。』や『言の葉の庭』など、新海誠監督作品の影響かと思ったら、全く違った。広東省佛山での中学時代、学校の図書館で和歌に関する中国語版の本を手に取った。本に使われていた日本の写真がきれいだったので、内容にも惹かれ、和歌に関心を持つようになったのだという。
彼女が当時の本の1ページを披露してくれた。
大事にしているかわいらしいノートも紹介してくれた。ぎっしり和歌と中国語訳が書き込まれている。ハートマークや赤、青、黄、いろいろな色で文字がかき分けられ、いかにも女の子のノートである。実は、キャラクターや趣向を凝らしたデザインのノートは、日本の「手帳文化」として若者の間で人気なのだ。
「小野小町 花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせし間に」
「藤原定家 見渡せば 花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮」
見開きのページに、有名な歌が何首もきれいなひらがなを使って書かれている。日本語は勉強したことがないが、50音だけはマスターしたのだという。彼女の発表は、自分と和歌との出会いから始まり、和歌の発展史、中国の詩歌の影響、万葉集と古今和歌集の比較、現代に伝わる百人一首、歌会始、カルタ取り競技にまで至る、幅広いものだった。カルタ取りに関しては、アニメの一部も紹介された。
最後に、彼女が自作の中国語による5・7・5・7・7の歌、いわば中国版和歌を一首、披露してくれた。
「汕大公园」
凉凉秋风起,
卷藏明媚汕大里。
一家老少齐,
奔走卧坐处处觅,
欢声笑语来告密。
直訳すれば、タイトルは「汕頭大学の公園」だが、「公園のような汕頭大学」と言った方がぴったりくる。大学はゲートでのチェックもなく、完全に一般開放されているので、週末や祝日は市内の家族連れでにぎわう。秋の涼しげな風が舞い、行内の豊かな自然を包み隠しているようだ。老いも若きも集まり、思い思いの場所で駆けまわったり、寝転んだりしながらくつろいでいる。歓声や笑い声が聞こえてくると、秋の景色までもが目に浮かぶようだ。
これがおおよその大意である。
次の授業に私は、中国版和歌を日本の和歌に意訳し、黒板に二つの詩を並べた。
「秋の風 学びの庭に 立ち渡り 子らはかけるよ 言の葉乗せて」
中国語は一文字で多くの意味を表すので、直訳するとなると日本語では文字数が足りない。日本語では不要と思われる形容詞も多い。感受性も審美観も違う。「言の葉」には和歌の意味がある。作者の学生自身をも「子ら」に含め、快活な躍動感を表すよう工夫した。出来不出来よりも、5・7・5・7・7による交歓に意味を見出した。各自が中国式和歌を作ることを期末課題にした。佳作は表彰すると約束したが、果たしてどうなるだろうか。
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。