一昔前、日本は為替介入を通じて行き過ぎた円高の防波堤役をしていたことがあります。この数年あまり聞かなくなったのはアメリカが嫌な顔をすることと日本円の市場が成長し、グローバル経済、更には投資マネーが世界中を飛び交っている中で一国の為替介入が及ぼす影響は限界がある、という事であります。
一方で小国ではいまだ為替介入という直接的手法は使われています。韓国もそうですし、スイスも一時為替防衛で介入をしていました。記憶に新しいところではウクライナも国家の危機で為替介入をしています。そういう意味では日本があまり直接介入をしなくなったのは「円が成長した」と私は前向きに評価しております。
ところが「異次元の金融緩和」は明らかに円安を目指したものが当初から明白に設定されていました。ですから、黒田バズーカ砲の第一弾の時、円安が実弾を伴わないで実行できたのは素晴らしいと高く評価されたのであります。第二幕も同様の傾向を示していますから所定の目的は達成するのでありましょう。
この金融緩和と直接介入では何が違うかというと金融緩和は資金を長期的にコミットされた形で投入し通貨調整機能を持ち合わせるのに対して、直接介入は実弾がある限りの効果であります。つまり、金融緩和は持続性という点で明らかに優れた能力を持っておりますが、当然ながら出口が作りにくいという最大の問題点を持っております。
例えは悪いのですが、原発だってその炉心の終末処理のプランが明白になっていない中でどんどん作り上げてきました。今回の金融緩和も「異次元」であればあるほどどうやって通常状態に戻すのか、そこの議論はほとんどなされていません。つまり、例えば円安が行き過ぎた時、それを最小限の市場への影響できちんと戻せるのか、そのツールを持ち合わせていない可能性だって十分にあるのです。
今回の円相場は明らかに人為的に円安を作り上げました。熱過ぎるお湯には入れないけれどそれをどんどんぬるくしていって最後、快適と思われるところを過ぎた時、日本ははっとするはずです。これは止まらない、と。
もう一つは今回の円安で韓国が非常に苦しみだしたことは無視できないと思っています。一国の経済の安定化の為に他への影響を顧みないのはどうかという事です。これは何処の国でも同じであり、アメリカだってそのうち、苦言を呈するかもしれません。私は基本的には為替は人為的にいじくるものではない、と考えています。為替の変動とはそうなるしかるべき理由があるからであります。
なぜ、日本が円高になったか、それは結果として見える圧倒的なコスト競争力に他なりません。ただ、愚かなことに日本はそれを達成するために人件費を削り企業の利益水準を守ったことが円高に繋りました。仮に日本でも北米並に人件費が上昇し続けていればこんな円高は起きなかった可能性は大いあったかもしれません。つまり、日本は優等生すぎたのです。それをこれでは成績が良すぎるから少し手抜きしようか、とも取れるのが昨今の政策でもあります。
こう考えれば政策による円安誘導はおかしいと思ってくれる方もいるかもしれません。
例えば米ドルカナダドルのペア。これなどは明らかに国力、経済力から来る為替水準を作り出しています。資源価格が高騰している頃は単位当たりのカナダドルはアメリカドルより高かったのに昨今の水準は大体12%程度下回っています。それはアメリカとカナダの労働市場が似た境遇にある中で為替の落ち着きどころが両国経済に非常に密着しているからともいえるのです。
為替とは私はこういう関係であるべきだと思っています。あまり、力で動かしすぎてあとで厄介なことにならなければよいと思っております。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。