1.最高裁が求める国会論議
2015年12月16日、最高裁大法廷が「夫婦同姓規定には合理性があり合憲」とする初判断を示してから、ちょうど2年が経過しました。原告側が主張した「姓の変更を強制されない権利」を「憲法上保障されたものではない」と否定、同姓には家族の一員であることを実感できる利益があるとしたのです。
しかし、忘れてはならないのは、同時に最高裁は、「女性側が不利益を受ける場合が多いと推認できるが、通称使用の広がりで緩和されている」と通称使用に改めて言及するとともに、選択的夫婦別姓制度についても、「合理性がないと断ずるものではない」と付言しつつ、国会での議論を促していることです。
要するに、最高裁は、夫婦同姓規定を「結婚を巡る法律に男女平等を求めた憲法には反しない」と結論付ける一方、明治民法に盛り込まれ戦後も引き継がれた「家」制度、そして夫婦同姓規定をはじめとして「制度の在り方は国会で判断されるべきだ」とし、家族制度についての活発な論議を促しているのです。
2.信条をぶつけ合うだけの政党たち
ところが国会は、国会議員たちは、司法判断を求める国民の闘いを横目にモリカケ論議にうつつを抜かしているばかりです。もちろん国会でも毎年のように民進党や共産党が夫婦別性を認める民法改正案を提出していますが、夫婦別姓に反対の自民党と賛成の野党たちが睨めっこして、議論は何も深まりません。
野党の民法改正案を見ると、第一に、夫婦各自が婚姻前の氏を称することができるとし、第二に、別氏夫婦の子は出生の際に父母の協議で定めるいずれかの氏を称するとしており、いわばフルスペックの夫婦別姓制度になっていて同姓に「家族の一員であることを実感できる利益」を認める立場と相容れません。
いまの国会の不毛さは、別に夫婦別姓制度に限ったことではありません。かつての安保法制の時にも、曖昧な存立危機事態に自衛隊の活動を拡大する与党に対し、米軍等防護事態という具体案を提示した維新を除いて、野党は専守防衛=本土決戦を唱えるばかり、最後はプラカードで示威行為して終わりでした。
3.家族の一体性と夫婦別姓は両立する
そこで年明けの通常国会での論戦に資することを期待し、現実的な提案をしたいと存じます。といっても、私が何か全く新しい提案をするわけではありません。そもそも一昨年2月から結婚により姓を変更された方が役員登記する際には旧姓との併記が可能となっているからです。(商業登記規則第81条の2)
政府与党も指を銜えて遊んでいるわけではなくて、本年6月の「女性活躍加速のための重点方針2017」には「旧姓の通称としての使用の拡大」を掲げ、マイナンバーカード、旅券等への旧姓併記、銀行口座等の旧姓使用等に言及はしているのです。では、なぜ論争が尽きないのか、それは弥縫策だからです。
「橋下徹の激辛政治経済ゼミ」でこの話をしたら、橋下さんも「旧姓に一般的な法的効力が認められるなら、それはもやは通称とは言えなくなります」、それが「選択的夫婦別姓の範疇に含まれるなら、足立さんの提案でも十分」と評価下さいました。そうなんです。通称を突き詰めると通称でなくなるのです。
大事なことは、抽象的な政治信条をぶつけ合うのではなくて、現実社会で誰が何で困っているのか、その現実を突き詰めていけば、自ずとベターな制度提案が出来る。選択的夫婦別性に関する私の提案を一言で言えば、「通称に一般的法的効力を認める」です。では、具体的にどうするのか。戸籍に記すのです。
4.戸籍に旧姓を記し法的効力を付与する
戸籍とは、戸と呼ばれる家族単位で国民を登録する目的で作成される公文書です。先に紹介した野党のバカ提案、彼ら彼女らの提案は、完全な別姓なので、その論理を発展させると、忽ち戸籍の分離、戸籍の廃止に行きつきます。今の戸籍は同姓でなければ編成できないので、与党が反対するのも当然なのです。
橋下さんは、戸籍は重視しない立場です。これからはマイナンバー制度があるので「戸籍がなくても行政実務は十分できます」と仰いますが、私は戸籍を重視します。家族の戸籍一体性を重視します。そこで提案なのです。戸籍一体性を確保しつつ、旧姓を戸籍に明記、それを基礎に一般的法的効力を付与する。
そもそも戸籍における姓=氏というのは、戸と呼ばれる家族単位のインデックスです。夫(甲野義太郎)の戸籍に妻(乙野梅子)が入籍すると、妻の欄に「梅子」と記され、乙野という籍からは切り離されます。妻の父の欄を見れば旧姓も分かるのですが、個人のアイデンティティが断絶すると感じるわけです。
そこで、維新版「選択的夫婦別性」を選択する場合は、妻の欄に「梅子(乙野梅子)」と明記し、「乙野梅子」に一般的な法的効力を付与すれば、家族の一体性を確保しつつ夫婦別性も選択できる、いかがでしょうか。もちろん子の氏は「甲野」であり「甲野啓太郎」と記されます。夫と妻が逆でも構いません。
その他、細部の設計には様々なバリエーションが考えられます。一番議論があるのは、乙野を選択した場合に甲野の使用は認めないのか。認めれば、二重国籍のように公平性が問われるし、甲野の使用を認めないなら、商業登記のような併記さえ不要になりますが、家族の一体性に疑問符が付くかもしれません。
5.維新版「選択的夫婦別性」で日本を前に
以上、維新版「選択的夫婦別性」と書きましたが、今は足立私案でしかありません。しかし、即リプで党の創設者である橋下さんにアホ、ボケ呼ばわりされて、黙っているわけにはいきません。サイボウズの青野社長も果敢に挑戦を続けてられます。国会でも議論を深め、国を前に進めてまいりたいと存じます。
戸籍のような制度は、かつては東アジアに広く存在していたそうですが、事実上形骸化している中国を除き日本のみに現存する制度だそうです。過去の遺物として軽視するのは簡単ですが、日本の制度の良いところは残しつつ、制度イノベーションを図り国民の幸福を実現していくことが大事ではないでしょうか。
立憲民主党はじめ民進系の政党が共産党と一緒になって、まかり間違って再び政権交代を果たさないとも限りません。そうした輩たちに日本の歴史と伝統ををむちゃくちゃにされないためにも、自民党の弥縫策だけではなく、日本維新の会が制度イノベーションを提案し国を前に進めていかねばならないのです。
編集部より:この記事は、衆議院議員・足立康史氏の公式ブログ 2017年12月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は足立氏のブログをご覧ください。