トランプ大統領のダボス演説に、主流メディアが喝采

安田 佐和子

トランプ大統領、就任2年目を迎え路線変更に踏み切りました・・・少なくとも、1月26日の段階では。

ダボスで開催された世界経済フォーラムで演説を行ったトランプ大統領の姿は、多くの人に2016年11月8日での大統領選後の勝利演説や2017年3月の議会演説を彷彿とさせたようです。主な内容は、以下の通り。

“米国第一”は、“米国単独”を意味しない米国が成長する時は、世界も成長する。米国の繁栄は世界で数え切れない雇用を生み出したほか、米国の卓越性、創造力、革新への牽引力は、あらゆる国の人々が一段と豊かに、かつ健康的に生活できるよう、重要な発見をもたらしてきた。(But America first does not mean America alone. When the United States grows, so does the world. American prosperity has created countless jobs around the globe and the drive for excellence, creativity and innovation in the United States has led to important discoveries that help people everywhere live more prosperous and healthier lives.)

・私はここに、明快なメッセージを携えている。米国で雇用、建設、成長するにあたってこれ以上の機会はない。米国はビジネスにオープンであり、我々の競争力は再び高まっている米国が成長する時は、世界も成長する。(I’m here to deliver a simple message – there has never been a better time to hire, to build, to invest and to grow in the United States. America is open for business and we are competitive once again When the United States grows, so does the world)

・世界は強く豊かな米国の復活を目の当たりにしている(The world is witnessing the resurgence of a strong and prosperous America.)

米国の繁栄は世界で数え切れない雇用を生み出したほか、米国の卓越性、創造力、革新への牽引力は、あらゆる国の人々が一段と豊かに、かつ健康的に生活できるよう、重要な発見をもたらしてきた。(American prosperity has created countless jobs around the globe and the drive for excellence, creativity and innovation in the United States has led to important discoveries that help people everywhere live more prosperous and healthier lives.)

米国は、互恵的な二国間での通商合意を全ての国と交渉する用意がある。これには、極めて重要なTPPも含まれる。我々は既に一部の国々と合意z身だ。我々はその他の国々とも、個別に、あるいは関心ある各国とグループでの交渉を検討していく。(The United States is prepared to negotiate mutually beneficial, bilateral trade agreements with all countries. This will include the countries within TPP, which are very important. We have agreements with several of them already. We would consider negotiating with the rest either individually or perhaps as a group if it is in the interests of all)

・我々は人々に投資しなければならない。人々が忘れ去られた時、世界はバラバラになってしまう。忘れられた人々の声に耳を傾け、対応することで、明るく皆で真に共有する未来を創造することが可能になる。(We must invest in our people. When people are forgotten the world becomes fractured. Only by hearing and responding to the voices of the forgotten can we create a bright future that is truly shared by all.)

普段はトランプ大統領に容赦なく批判、非難、糾弾の雨を降らせる主要メディアでも、非常に好意的な報道で溢れ返るほどです。以下、主要メディアのヘッドラインをご覧下さい。

・地に足のついたトランプ、ダボスのエリートに安心感を与える(A Sober Trump Reassures the Davos Elite)—ニューヨーク・タイムズ
→トランプ大統領は”米国第一”が国際協力を拒否するものではないと語りかけ、闘争的な国家主義者から取引を導き出すセールスマンへ変貌を遂げた。

・ダボスでのトランプ、人々を勇気づけた—The Trump we saw in Davos should leave us encouraged—ワシントン・ポスト、論説
→トランプ大統領の演説は率直で、賢明で、融和的で、世界を非難することはなかった。トランプ氏は大統領の職務の重さを受け止め、地に足をつけ、責任ある道筋ヘ向けた一歩を踏みしめたのではないか

・ダボスでのトランプのパフォーマンス、批評家を安堵させる(Trump’s performance at Davos was calming, critics say)—CNBC
→聴衆の99%は米大統領選で投票権を有していたならばクリントン候補に投票したような面々で、トランプ氏の演説にブーイングなどで噛み付く態勢にあったが、演説を好意的に受け止め米国への投資を新たに検討する声まで聞かれた。

・トランプ、ダボスの演説で「米国第一」ではなく「米国単独」ではないと発言—Trump Davos speech: ‘America First policy is not America alone’—BBC
→トランプ大統領は貿易戦争ではなく、公正な貿易を望む姿勢を表明。

・米国第一は、世界に恩恵を与える—サウス・チャイナ・モーニング・ポスト
トランプ大統領は経済パフォーマンスを自慢し、”公正で互恵的”であれば自由貿易を支持すると表明。

国家経済会議(NEC)のゲイリー・コーン委員長の後任として取り沙汰されるラリー・カドロー氏も、論説で「トランプの”米国第一”は、経済の成功という新たなメッセージをもってダボスで勝利した(Trump’s ‘America First’ triumphs in Davos with a new message of economic success)」と称賛を送ります。

ダボスはトランプ大統領を歓迎するムードでなかったものの、少なくとも演説で会場とメディアの空気が変わりました。

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(出所:Gustave Deghilage/Flickr)

ホワイトハウスのページでも、ダボス会議でのトランプ大統領のメッセージについて説明していました。重要なポイントは、以下の3つに集約されるようです。

1. 米国は世界の成長と反映にコミットする—世界最大の経済の担い手として、米国は国内で正しい行動を取る必要がある。米国が成長すれば、世界も成長する
America is committed to global growth and prosperity. As the world’s largest economy, the United States has a particular responsibility to get things right domestically: When the U.S. economy grows, so does the world’s.

2. トランプ政権は自由でオープな貿易を支持する—貿易は公正で互恵的でなければならない。全ての国々がルールを遵守し、責任を負わなめれば、世界経済は繁栄しない。(The Trump Administration supports free and open trade—but it must be fair and reciprocal trade, too. The global economy cannot flourish unless all countries follow the rules and are held responsible when they don’t.

3. 指導者は世界経済システムを見捨てるのではなく、改革させなければならない—米国の目標は、世界経済が世界各国で機能するよう、説明責任があり、かつ効率的な制度への改善を進めることだ。(Leaders must reform—not abandon—the international economic system. America’s goal is to improve that system by making it more accountable and efficient, which will make the global economy work for all sovereign nations.)

全体的に中国を念頭に戦略立て直しを図ったように感じたのは、筆者だけでしょうか?ルール、責任、公正・・・一連の文言をみると、TPPへの復帰検討も合わせて中国へ牽制球を放ったように映ります。いずれにしても、トランプ大統領がダボス会議で与えた安心感の灯が、今後広がって世界を明るくさせるのか。次は1月31日の一般教書演説に注目が集まります。

さて、ダボス会議と言えば数々のセッションを抱え、経済、ビジネス、テクノロジーを協議する機会でもあります。今年の会議ではどんな内容が注目されたのか?フォーチュン誌が掲げる7つの注目点をご覧下さい。

1.精神衛生上の問題は、時限爆弾である

2.自動車の自動化は雇用を奪い、批判の対象になりかねない

3.誰もが愛するブロックチェーン

4.スマートデータは、マラリアを根絶へ

5.企業は、引き続き変革の旗手に

6.スマートスピーカーが、人間性を豊かにする

7.テレプロンプターが世界を救う(トランプ大統領の即興でない演説に対して)

やっぱり、最後に即興ではない練り込まれたトランプ大統領の演説が入ってきました。個人的には、1番目の精神病関連に注目してしまいます。米国で蔓延するオピオイド問題にもつながり、経済成長を押し下げかねませんからね。世界でも薬剤、麻薬の過剰摂取による死亡者数は先進国とエマージング国と合わせ一部で非常に高い状況。精神病と話が違うと思われる方もいらっしゃるでしょうが、オピオイドなど薬剤で精神に影響が現れるケースもあり、懸念すべき問題として捉えるべきでしょう。

(カバー写真:The White House


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年1月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。