韓国聯合ニュースによると、朴槿恵前政権を巡る国政介入事件で、贈賄の罪に問われていた韓国ロッテ会長の重光昭夫(韓国名:辛東彬)被告に対し、ソウル中央地裁は13日、懲役2年6月の実刑判決(求刑・同4年)を下した。これとは別に、重光被告は昨年12月、ロッテグループのお家騒動に伴う横領事件でも懲役1年8月、執行猶予2年の有罪判決が受けているが、この日の実刑判決後、ただちに収監されたことで、一連のお家騒動はトップ不在の異常事態に発展した。
重光被告不在により、ロッテグループの舵取り役を誰が担うのか。兄で、重光被告と経営権争いを展開し、グループから追放された創業者長男の重光宏之(韓国名:辛東主)氏はこの日夕方、報道陣に下記の声明文を速報で発表した。
(略)…ロッテグループにおいて、日韓双方における代表者の地位にある者が、横領・背任、贈賄など、様々な犯罪行為で有罪判決を受け、刑務所に収監されたことは、 ロッテグループの 70 年の歴史上前代未聞の出来事であって、極めて憂慮すべき事態であり、重光昭夫氏の即時辞任・解任はもとより、コーポレート・ガバナンスの抜本的な刷新・建て直しがロッテグルー プにとって不可欠且つ喫緊の課題であることは明らかであります。…(略)
宏之氏は2016年3月の臨時株主総会、同6月と翌年6月の定時株主総会の3度に渡り、約3割の株を保有する筆頭株主(光潤社の代表取締役)として経営復帰を目指したが、株主総数の過半を制する上で必要な従業員持ち株会の支持が得られず、重光被告側の“返り討ち”に遭い続けた。
しかし、重光被告が控訴するとみられるものの、収監されたことで長期のトップ不在は避けられない。また、重光被告の腹心だった韓国ロッテナンバー2の李仁源副会長が2016年8月、検察の裏金事件捜査の山場を前に自殺した経緯もあり、グループ内の求心力が落ちれば、現経営陣や従業員持ち株会に与える動揺は少なくないとみられる。
3年に渡る兄弟間の経営権争いは、新たな展開を迎える可能性がありそうだ。
オーナー代行収監で球団経営の影響はどうなる?
一方、今回の重光被告収監が及ぼす影響の中でも、日本で身近なものといえば、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの経営がどうなるかという問題だ。
現在、マリーンズのオーナーはロッテ創業者の重光武雄(韓国名・辛格浩)・グループ名誉会長であるが、高齢と病気のため、実質上の球団経営は、オーナー代行である重光被告の役回りだ。日常の球団経営の現場は、みずほ銀行出身の山室晋也球団社長以下に任せている。
私がマリーンズの担当記者だった当時の記憶では、たしか数千万円以上の一定額についての決済は、重光被告が自ら行っていて現在も変わっていないとすると、外国人選手獲得などの実務に支障が出てくるのは避けられないとみられる。
さらに一球団にとどまらず、日本球界全体のガバナンスにも影響が予想される。というのも、球団オーナーにあたる親会社の経営者が実刑収監されるという異常事態が、野球界の憲法である野球協約をはじめとする既存のルールでは想定外だったとみられるからだ。
現行制度の不備:オーナーの刑事罰は“想定外”
以前も取り上げたことがあるが、現行の野球協約では、八百長などの「不正行為」を禁じた177条や、賭博行為や暴力団関係者との交際を禁止した180条において、追放も含めた処分の対象としているが、オーナー資格を問う規定はないようだ。重光被告が昨年末に有罪判決を受けた際も一部マスコミで指摘はあったものの、外国の判決ということもあり実質放置されてきた。
なお、オーナー級の人物が刑事罰を受けた「先例」といえば、西武ライオンズの名物オーナーとして知られた堤義明氏が利益供与事件で逮捕・有罪判決を受けたことが想起されるが、堤氏が逮捕前に経営から離れたことで、制度面のことは問われなかった。
Jリーグ協約では、リーグの役職員、選手などの関係者に対し、刑罰法規に抵触する行為を行った場合の制裁金を課している。内訳は、① 生命・身体に対する行為 5,000 万円以下、② 公益に対する行為 3,000 万円以下、③ 名誉・財産に対する行為 2,000 万円以下—と定めており、倫理規定においても役職員の法令順守を義務付けている。
「オーナーは神様」とでもいうべき、性善説のガバナンスが続いてきたプロ野球界だが、重光被告の動向や、控訴した場合の判決結果次第であること、あるいはファンからの不信の声が上がる可能性など、前代未聞の事態は波乱含みで、NPBも相応の対応が迫られそうだ。
(追伸:14日1:00)事実関係で数カ所訂正・補足しました。