自衛隊 イラク日報隠蔽の体質の闇の深さ

イラク日報  報告遅れ「大問題」 参院委で小野寺防衛相毎日新聞

イラク日報隠蔽問題、国会紛糾 野党“集中審議”要請もTBS

イラク日報隠蔽問題、国会紛糾 野党“集中審議”要請もロイター

これはいくつか問題の論点があります。
第1に日報がなくなったという胡乱な嘘が通用すると思った間抜けさ。
PKOの日報はその後のPKOの計画策定やら、後々の資料ともなるもので、そんな物を処分するわけがない。
これは軍隊では当たり前の話です。

ところが内部の事情、社内政治を優先するのでそんな当たり前のことが分からなくなっている。
軍隊としては失格ですよ。閉鎖社会に過剰適応して、外部の社会の常識が全く分からなくなっているわけです。

これは陸幕装備部がつくった、ぼくの本の正誤表も同質の問題です。ぼくはごく一部だけ入手したわけですが、
指摘した54カ所の間違いの指摘の方が間違っていた、という間違いだけの正誤表を作っていたわけです。
54カ所中間違いは3カ所でした、と陸幕もぼくにわびを入れている。そのうち2カ所は単に国交省との見解の違いでしかありませんでした。

以前小野寺大臣の時にこの全文を公開することを求めました。ところが事務方はこれが内部文書であり、情報公開の対象では無いからという理由で退けました。

自衛隊の情報源はウィキペディアや2ちゃんねる?
http://japan-indepth.jp/?p=979
http://japan-indepth.jp/?p=994
http://japan-indepth.jp/?p=1011

ウィキペディアあたりを参照にした胡乱な、頭の悪い中学生レベルの作文ですよ。
こんなものすら、木で鼻をくくったような対応しかしない。

恥を掻きたくないという心理もあるのでしょうが、こういう情報公開に背を向けることは組織の堕落と、モラルハザード、劣化を生みます。

この質問は特定機密保護法の成立前にしたものです。
こんなしょうもない書類さえ公開しないんであれば、特定機密保護法が成立したら、防衛省の情報公開は更に交代するのではないかと思ったからです。そして案の定がイラクや南スーダンの日報隠蔽です。

これは万引き常習犯みたいな物で、気の迷いとかじゃなくて、一種の病気であり、組織としての文化であり性格になっているといえるでしょう。

この件で問題なのは指摘した「正解」の殆どが間違っているといことですが、こういう胡乱な書類が防衛省内で多数流通しているであろう、ということです。

このような間違いだらけの書類が資料として流通し、それを元に政策や計画が策定され、政治家にご説明がなされているという疑いが濃厚であります。

ぼくの本の正誤表にしろ、内部で問題にならなかったわけですから。
自衛隊の中に連中の目は節穴だったということになります。

この一件が公開されおり、作成者や上司がそれなりに処分されておれば、まだ抑止効果になってでしょう。
ところがダンマリ決めこみ、処罰もされなかったので、恐らく同じようなできの悪い中学生が書いたようないい加減な、書類が省内に多数流通し、政治や他省庁にも提出されている可能性があります。これを否定することはできないでしょう。

つまり、外部に情報を隠すことで組織の劣化とモラルハザードがすすだということです。

ところがこの件で防衛省を庇おうとした人間がおります。
当時のNHK記者クラブキャップの鈴木徹也記者です。

鈴木徹也記者はぼくのこの質問を個人的な質問だとインネンをつけてきたわけですが、恐らくは記者クラブで、当局をこまらせるような質問を妨害しようとしたのでしょう。

『記者クラブ』というシステム〜防衛省大臣記者会見後で非記者クラブ会員に圧力をかけるNHK記者の存在
http://japan-indepth.jp/?p=1131
http://japan-indepth.jp/?p=1135

続報】「皆様のNHK」の誠意に疑問〜問題が発生したら無視を決め込む公共放送は許されるのか

http://japan-indepth.jp/?p=1480
http://japan-indepth.jp/?p=1483

記者クラブは当局が困るよう名質問はしません。それをすると意趣返しをされるからです。
だから当たり障りの無い質問しかしない。それで持ちつ持たれつの関係を維持しているわけです。
当然緊張感があるわけがなく、権力の監視なんぞができるわけがない。

しかも軍事の専門家ではない。ですから知識や見識がないから質問もできないといこともあります。
能力が無いうえに、当局となれあっているわけですから、問題発見や権力の監視なんぞができるわけがない。

だから、日報問題でも当初突っ込んだ報道ができなかったわけです。軍隊をよく知っていれば、日報を破棄することはあり得ない、そこから推論を始めるがそれが分からない。

だから当局の側も調子にのって、日報破棄しましたといってしまう。メディアが安くみられているんですよ。
ギルド以外の専門記者を排除するらこういうことになる。

因みにルワンダでは医療部隊が銃撃され、30分も伏せていたことがありましたが、これも隠蔽されています。

また、イラクなどのPKO派遣では当時の隊員のカルテが破棄されておるようです。本来隊員のカルテ、特にこういう作戦のカルテは保存すべきですが、個人情報だといって破棄したらしいです。軍隊が将兵のカルテを破棄するなんてことはありません。大事な基礎資料ですから。

野党のセンセイ方はこういう点を、是非国会で追求して欲しいものです。記者クラブには無理でしょうから。

もう一つの問題は下克上です。
下が上を謀っていいというモラルハザードが起こっています。
将校団が幕僚長を騙す、それも内局官僚とつるんで。海自のUH-X選定なんてのはその好例です。

海自ヘリ選定巡る下克上と内局
http://japan-indepth.jp/?p=34774
http://japan-indepth.jp/?p=34784
http://japan-indepth.jp/?p=34792

ぼくが一時期記者会見で質問した陸自の衛生の問題もそうです。
有事には国内用衛生キットを全部ではないにしろ、PKO用と同じようにアイテムを充足するという計画があると大臣や幕僚長に説明させたが、嘘です。備蓄はなく、業者の在庫をアテにするというも、当の業者が聞いたことがない
これを陸幕では「計画」というそうですが、世間では嘘とかでまかせといいます。

同様に月とすっぽんの米国のキットと同等だとか、同じような嘘を大臣や幕僚長に吹き込んでいます。

また幕僚長の名前をかたって旧軍の憲兵隊を気取っている連中もおります。こいつらは政治家やジャーナリスト、協力するOBを脅しています。これが本当に幕僚長も黙認しているならば、今の幕僚長も辞任が必要な事態に追い込まれている可能性があります

こういう組織が戦時にマトモに戦えるでしょうか。

このような風潮を助長していきたのが安倍政権です。
安倍政権の「旗本」である、世耕、丸川、佐藤正久氏らの議員は民主党時代に仙谷長官の「暴力装置発言」をあげつらい、お前はアカだ、自衛隊を盲信することが文民統制だ、というような寝ぼけたことをいって当時の政権を攻撃し、結果「実力組織」という珍妙な造語までできました。売春を援助交際というようなものです。日本刀を人斬り包丁だから、これは包丁というようなものです。

防衛省に「文民統制」はない
http://japan-indepth.jp/?p=33491

このように今回の日報問題は一例というわけではなく、構造的な問題を抱えており、その根は大変深いといわざるを得ません。

■市ヶ谷の噂■
内局が国内メーカーと癒着、共謀して某新装備調達で陸幕に圧力をかけている、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。