ヨーロッパで最大の格安航空であるライアン航空が現在バルセロナ発着便について30%の料金の割引を行っている。座席利用率を平均90%で維持する為であるという。
カタルーニャの独立問題で昨年10月に独立を問う住民投票が実施された後、バルセロナを訪れる観光客が大幅に減少。昨年第4四半期のバルセロナのホテルの売上は5000万ユーロ(67億5000万円)減少するという結果になったという。
この減少は外国からの観光客がバルセロナに向かう飛行機を利用ことが減少しているということを意味することになる。そこで、ライアン航空では先手を打って、30%の料金の割引の実施に踏み切ったのである。そのお陰で、バルセロナ発着便の乗客の利用率が平均90%を維持しているというのである。一般にライアン航空の座席利用率は96%と高い率を維持していると言われている。
それに続く割引キャンペーンとして、6月30日まで50万席を対象にスペインの20都市からのフライトに25%の割引を実施している。
1985年に誕生したライアン航空を始め、現在ヨーロッパには60社余りの格安航空が鎬を削っている。LCCは2020年までにヨーロッパの航空市場で50%の市場を担い、2024年には55%まで占めるようになると言われている。一般航空が年間3.5%の成長に留まっているのに対し、LCCは年間9.7%の成長をしているという。
LCCが成長するカギはより多くの路線を持ち、より安価な料金を提供するということしかない。そのカギを堅実に果たしているのがライアン航空なのである。また、同社が急成長した背景にはスペインの観光ブームにうまく便乗したということがある。
スペインを訪れる外国からの観光客数でNo.1は常に英国人である。ライアン航空はその英国人をスペインへより安価に旅行できるようにしたのである。
ライアン航空がスペインに最初に乗り入れたのは2002年12月であった。着陸に選ばれた空港はカタルーニャのジロナ県のジロナ空港で、バルセロナまで凡そ100㎞離れた空港である。そこを利用する方が着陸料がバルセロナのプラッツ空港よりも遥かに安いからであった。
当時、年間50万人が利用していた空港であったが、ライアン航空とイージージェット航空がこの空港を利用するようになって、2008年には550万人がこの空港を利用するようになったのである。その後、格安航空はプラッツ空港も利用するようになり、ジロナ空港は現在250万人の利用客に留まっている。
2017年にライアン航空を利用した乗客は1億2900万人。トップの座は1億3000万人が利用したルフトハンザグループに奪われた。スペインはライアン航空の利用客が英国に次いで二番目に多く、今年は4150万人が利用すると同航空は見ている。その為にも、スペインとヨーロッパの29都市の路線を新たに開設することになっているという。これによって、ライアン航空はスペインで500路線を持つことになるとしている。
ライアン航空は昨年後半からパイロット不足で2000便近くをキャンセルせねばならなくなるという事態が発生したが、その根本的な解決にも取り組んでいるようだ。パイロット不足が発生したというのは、4000人を超えるパイロットを抱えている同航空から1年間に凡そ700人のパイロットが他社に転職したのである。その内の140人はライバルのノルウェジアン航空に転職した。その引き金になったのは一人のスペイン人パイロットで、彼の後を追うかのように70人余りのスペイン人パイロットがノルウェジアン航空に移った。
ライアン航空のパイロットが多量に辞めた理由は、彼らへの待遇が非常に悪く、あたかも彼らをロボットのように見做し酷使するからであったという。しかも、パイロットの大半はライアン航空の社員ではなく自営業を営んでいるパイロットにして、彼らと契約するような条件となっている。その為、医療費や定期的にパイロット訓練を受ける場合などに発生する費用は全てパイロットが負担せねばならなくなっている。しかも、スペイン人のパイロットの場合、契約条件はアイルランドの労働条件に基づいたもので、スペインの労働条件が適用されないと言った変則的な契約となっていた。
また、観光シーズンオフになると、旅行者も減少するのでフライフも減少する。時給で稼ぐことになっているパイロットにとって、閑散期の収入が大幅に減るというマイナス要因もライアン航空で働くことの不満として彼らはもっていた。
多くのパイロットが一挙に辞めた影響で機材はあってもパイロット不足で飛行機を飛ばせないという事態になった時、経営者側は特別手当を出すから休暇を返上して勤務に就くように要請した。しかし、それに応えるパイロットは殆どいなかったという。
この様な経験をした経営者側では最近になって労働組合の結成も認めるようになり、スペイン人パイロットの場合はスペイン・パイロット連盟にも加盟することが認められるようになった。
これまでのパイロットを奴隷にように酷使して来た経営者側の姿勢にも変化が見られるようになったのである。この問題を解決しておかないと、ライバルのイージージェットやノルウェジアンとの競争にも劣勢で戦わねばならなくなる可能性があったからである。
ライアン航空の直接のライバルであるイージジェットは年間で8000万人が利用している。英国がEUから離脱した後も単一欧州空域(SES)を利用できるようにオーストリアで本社機能を満たすようにしている。株主構成においてもEU圏の株主が過半数を占めることが出来るようになっている。
一方のライアン航空は本社はアイルランドにあり、SESの利用は問題ないが、英国のEU離脱で株主構成がEU圏の株主が40%まで下がるという。その解決が迫られている。また、英国がEUから離脱した後は、英国のベース基地から50機をEU圏に移すことも計画しているという。
この2社とも、大西洋を横断するフライトは計画していない。採算に乗らないと判断している。ライアン航空の場合はスペインで大西洋を横断しているエアー・ヨーロッパ航空と提携してこの問題を解消させている。因みに、エアー・ヨーロッパの創業者フアン・ホセ・イダルゴはフランスにブドウ狩りに行く労働者を対象にバス会社を設立したのが彼の最初の事業であった。
ライアン航空とイージジェットとは対象的に大西洋を横断する便にも力を入れているのが1993年に50人乗りのフォッカーで初飛行させたのがノルウェジアン航空の始まりである。大量のパイロットの導入や、大西洋横断の為に長距離の飛行に燃費の良いボーイング787を昨年は37機導入している。昨年は3300万人が同航空を利用した。昨年はパイロットや地上勤務員など2000人を新たに採用したという。その負担が多額の出費を招き赤字をもたらしているが、ヨーロッパだけの狭い市場での競争を避けて敢えてアメリカ市場への挑戦に踏み切っている。
昨年はエア・ベルリン航空そしてモナーク航空が倒産している。エア・ベルリンは一般航空とも格安航空とも呼べないような中途半端な経営をしていた。それが不振を招き、資金支援をしていたエティハド航空からも見放されて倒産した。モナークは価格競争について行けず、しかもポンドの下落が影響して倒産となった。
原油価格が仮に今後上昇して行くと、更に倒産する航空会社が現れると言われている。