ギリシャの行方など日本の人にはあまり関心がないかもしれません。欧州の小国だし、日本との関係も薄い中でその国がどうなるかよりももっと気になる「あの話」のほうに飛びついてしまいます。しかし、世界経済を俯瞰すると目先、それも遅くとも6月中か7月のはじめぐらいまでにはギリシャの行方が見えてくるスケジュール感の中でそのインパクトは向かう方向次第で世界経済の10年後の絵図を書き換えるかもしれないほどだと思います。
今日はギリシャ情勢を誰が読んでも分かるように易しくアップデートしてみたいと思います。
ギリシャは公務員天国で財政支出が多く、経済運営が厳しくなっています。そのため、トロイカと称する欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)、および欧州連合EU)が中心となってギリシャを援助しています。その支援継続にはギリシャが財政再建案を示すことが条件となっており、今回、その融資の更改の時期を迎えています。
ところがギリシャは先の総選挙で反緊縮派が与党となり、チプラス首相が財政の緊縮をせずに金融支援を引き出すことを選挙公約しました。また、与党を形成するために急進左派連合は右派の「独立ギリシャ人」党と連立しています。左派と右派の連立ですから共通点は反緊縮のみであり、チプラス首相が挙げた手を下せば独立ギリシャ党は約束が違うとして与党を維持できなくなります。つまり、チプラス首相にはその政策にフレキシビリティはほぼないと言ってよい状態です。
EUを中心としたトロイカとの交渉は相当頻繁に行われています。次回のメジャーな交渉は今週のリガの欧州連合首脳会議でありますが、事務方からはこの会議で支援再開の合意に至るのは難しいとコメントされています。
一方、ギリシャはIMFからの融資が小刻みに満期になっており、その返済に追われています。ちなみに6月にはIMF宛に4回返済があります。ギリシャはこの難局を乗り越えるため、ECBからの緊急流動性支援(ELA)を受けるほか、政府や政府関連機関のお金を中央に回すいわゆるセントラルキャッシュマネージメントを行っています。国内のユーロがもはやギリギリとなる中、6月の4回のIMF宛返済が出来ても7-8月のEU宛は額が一ケタ多いのでデッドロックに乗り上げます。
昔、東欧では米ドルが貴重で私が行った多くの国で強制両替制度がありました。入国するとき滞在一日当たり何ドルを現地通貨に両替するというものです。一方、当時の東欧で現地通貨を使うところはほとんどありませんからそっくりそれが札束となって残ります。原則現地通貨は持ち出し禁止ですから強制両替制度はその国の入国料であったわけです。これはドルとローカルカレンシーの関係の一例であり、お金が無くなると国家はここまでするのです。同じことがギリシャでも言えるわけで現在取りざたされるのがユーロの流出を防ぐため、一種の資本規制をしようというものです。
そのためのアイディアの一つがギリシャのもともとの通貨、ドラクマ復活説なのですが、これは政府が借用証書を発行してユーロを使わせないというものであります。この借用証書を英語でIOUというのですが、言葉の由来は「I Owe You(私はあなたに借りがある)」であります。IOUは猪瀬元都知事が報道陣の前で見せた借用書と同じようにいったいいつまでどういう条件の借りがあるのかよくわからない証書であると想像され、実質的に二通貨制度となってしまいます。
多分ですが、トロイカはそんな小手先のことはやめてくれ、というでしょう。そうなるといよいよ資金に詰まります。今後の想定される展開ですが、一つはギリシャ側が仮に返済能力がまだ残っていたとしても期限に返済をしない方法が考えられます。これでトロイカ側を焦らせ、譲歩案を引き出す方法はあります。しかし、それは最後の手段でもあります。ちなみにローンの返済がちょっと遅れてもデフォルトにはなりません。先日もトロントのその方面に詳しい人と話をしましたが1か月程度の遅れはoverdueといって会計上、未払い扱いで済ませられます。
例えばアパートの大家がテナントから家賃が期限内に入らなかったらすぐに出ていけ、とは言えません。それと同じで多少の猶予があるという事です。日本は手形の厳密性のイメージがあるですが、これは猶予があるところに救いがあるともいえます。
二つ目にドイツなどが盛んに進める緊縮案に対するギリシャの国民投票実施であります。これはチプラス首相が自分の首を絞めることになりますので嫌がっています。ですが、その動きは確かにあります。あるいは6月のEUへの返済に関して国民の意に反して緊縮政策を選択し合意した場合、現政権は責任を取って解散総選挙を行うというシナリオもありかと思います。
いずれにせよ、ギリシャがユーロ圏から離脱するシナリオは今のところはないと思います。それは経済のみならず、ギリシャが赤化したり、地中海のアクセスをロシア、中国に奪取されることがもっと問題だからであります。
私はトロイカとギリシャがどこかの時点で合意するとみています。そうすれば回復基調のユーロ圏にも安堵感が漂います。それに失敗すればイギリスのEU離脱の国民投票も控えていることからユーロ圏はドイツを中心とする昔の欧州の地図に逆戻りすることすらあり得ます。それは絶対に避けなくてはいけません。
これから2か月のうちに大勢は判明するでしょう。これは壮大なる生き残りをかけた欧州の駆け引きでそれぞれの戦略に我々が学ぶところも大きいと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月20日付より