日大タックル問題。
選手である学生の記者会見と、それを受けての大学側、監督とコーチの記者会見。
この二つの記者会見には、結果的に明確な違いが出ました。
それは世間を味方にできたのか、敵に回したのか、です。
自身の社会性が高くなればプライベートなことであっても釈明、説明しなければならないことがあります。
影響力のある立場なら尚更のこと。
その最大の獲得目標は
「そんなに悪くないんじゃない?」
「それじゃ、仕方なかったかも」
「あなた一人が悪いわけではないでしょう」
「そんなに全責任かぶらなくても」
などの
共感や同情の反応です。
このような緊迫した場面で人は思ってもいないことは言えません。
そして嘘は見えます。
取り繕おうとしても「取り繕う」こと自体が「嘘」ですのでテレビの前の人にもそれは直ぐにバレます。
今回の日大アメフト悪質タックル問題の件が分かり易い実例です。
監督、コーチの会見と学生本人が開いた会見
客観的状況から分析しましょう。
先ず、服装です。
「人は見た目が100%」。
学生本人は会見で来ていたスーツはダークネイビーに見えました。
ネクタイは細目のこれもダークネイビー。
ネクタイは太さで「強さ」を表現するアイテムでもありますので、付けるなら細目のタイが正解。悪くない選択でした。
監督・コーチの会見ですが、服装が明るめのネイビーのスーツ。これは「エレガンス」や「艶っぽさ」を表す色で、謝罪会見では絶対ダメのNGです。加えて、コーチはストライプが入っていました。
ストライプの柄が入ったスーツは、オシャレで選ぶものです。お葬式に「黒のストライプ」のスーツ、着ませんよね。同じことです。
しかも、シャツが決定的にNG。
ボタンダウンを着ていました。
ボタンダウンはスポーツウェアです。
スポーツ取材でこれをお召しになっているならOKですが、謝罪会見の場でボタンダウンシャツ。
マナーに厳しいアメフト界からも叱られるのではないでしょうか。
次にネクタイ。
5月19日羽田での会見時、ピンクのネクタイは、言語道断、言うに及ばず、言葉を失います。
あれしかもっていなかったのなら、初めからタイは外して登場すべき。
23日の会見ではお二方ともストライプでしたが、少なくとも監督は小さな小紋柄にすべきでした。
立場を表現するにはストライプではなかったかと。
この点も残念すぎました。
そして、言葉。
これも酷い。
先ず、怪我をさせた相手の学校の名前を間違えていました。
「関西学院大学」を「かんさいがくいんだいがく」と。
正しくは「かんせいがくいんだいがく」です。
学校名をどうして間違うのか、理解に苦しみますが、それを差し引いても謝罪の場面で謝る相手の名前を何度も間違う。これは無い。言語道断以前の問題。
そして、監督の謝罪冒頭の「お父さんお母さんに関しては、誠に申し訳ありませんでした」
この場で言うなら「ご両親」。
そして、そもそも会見前に「お腹のお掃除」をしたのかということです。
誰にどう見られたくて会見を開くのか。
その目的を失した行為は、マイナスでしかありません。
当たり前すぎておかしな話ですが、ここが謝罪会見のポイント。
選手である学生の会見で彼は記者にどんな聞かれ方をしても、どんなに意地悪な問い詰められ方をしても
監督・コーチはこういった。
↓
しかし自分はそうすべきではなかった。
↓
よって
「自分が悪かった」。
と、この言葉を繰り返しました。
これに比し、監督、コーチの会見では話せば話すほど「選手の勘違い」をアピールしているように映りました。
実際がどうなのかは不明ですが、見ている側にそう見えるのは、その様な姿をして伝えているからです。
この管理者の側の会見は明らかに失敗。
では何が「失敗」だったのでしょう。
原因は大きく2点。
ひとつは先ほども言いましたが、何をどう思っているのかという「お腹のお掃除」をして挑んだのか。
もうひとつは「魅せ方」を検証していたのかこの二点に尽きます。
私は、記者会見を開くとき、政治家でも芸能人でも会見の前に必ず「お腹のお掃除」を徹底して頂きます。
なぜそのような問題が起きたのか事前に回避するチャンスはなかったのか。
自分の考え方のどの部分が本件を引き起こすことにつながったのか。
本件の最中でも自分の判断で止めるチャンスはあったのではないか。
本件が起きた後、隠ぺいしようとしたり、誰かのせいにしようとしなかったか。
自分の弱さを認識していたか。
今後二度と同じことを起こさないために何を考え、決めたのか。
会見の場で世間は見抜きます。
言い訳をして身を守りたいのか、反省をして、二度とないようにしたいのか。
失敗は誰にでもあります。
だから謝罪会見では謝罪に加え「反省した姿」をくっきりと魅せることが大切なのです。
失敗したときこそチャンスなのです。
それまで大切に大切に持っていたものを手放さなければならなかったり信用や社会的地位も失うのは何にもまして辛いことです。
でも「失敗」を「経験」に変換させる出発点がこれらの記者会見とすることができます。
方法は簡単。
自分の腹の中を大掃除してしっかり振り返り、手に持っているものを全て手放す覚悟をすることです。
それまでずっとギュッと握りしめていた手のひらを開いて手の中のものを捨てると気がつくのです
手が自由になっていることに。
そうしたら、それまで思いもかけなかった新しい何かが、あなたの手のひらにやってくるのです。
辛い記者会見を「新しい未来に向かって歩く第一歩」とする。
その覚悟を見せなければ記者会見は失敗なのです。
今回のこの両極端な記者会見。
潔さ、覚悟が見えたのは学生本人でした。
ここと比べられることを認識していない学校側は、大失態を演じてしまいました。
在校生の家族、卒業生にも残念でならない出来事だったことでしょう。
鈴鹿 久美子(すずか くみこ)株式会社InStyle代表取締役。
政策秘書として6人の国会議員に仕え、様々なタイプの選挙実務を経験。2012年の総選挙を前に政策秘書を辞職し、秘書と議員のマッチングを図る日本で唯一の議員秘書専門人材紹介会社「議員秘書ドットコム」を創立。議員秘書の人材紹介、議員秘書養成、国会議員や立候補者のコンサルティングに従事する。