日本で児童への虐待事件が多発しているという。犠牲者が児童や幼児の場合、悲惨だ。加害者が両親の場合、なおさらだ。親は本来、子供の成長を願い、健康ですくすくと育ってほしいと願うが、実際はそうではないケースが出ている。
日本のメディアによると、東京都目黒区で今年3月、5歳女児が虐待を受けて死亡するという事件が起きた。両親は保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。女児はノートに「もうおねがい、ゆるして」と書いていたという。そのニュースが流れると、多くの日本人は泣いた。そして子供を抱えている家庭はやり切れない思いがしただろう。「どうして」という思いと共に、「どうしたらそのような悲惨な事件を防ぐことができるか」と考えざるを得ない。
日本の児童虐待事件のことを考えていた時、スイスインフォからスイスの児童虐待件数に関するニュースが届いた。日本人が1度は訪ねたいアルプスの小国でもやはり悲惨な事件は起きている。以下のデータはUBSオプティムス基金(本部チューリヒ)が2016年9月から11月の間、児童相談所や病院、警察など国内の児童保護関連機関に報告された虐待の件数を集計したものだ。
スイスインフォによると、同国では年間、3万から5万人の児童が虐待されているという。その数は同国の子供人口の2から3・3%に該当する。その内、22・4%がネグレクト(育児放棄)、20・2%が身体虐待、19・3%が心理的虐待、18・7%が配偶者への家庭内暴力の目撃、15・2%が性的虐待という。子供人口1万人当たりの虐待報告件数はチューリヒ地域、ジュネーブ州を含む南部に多いという。
ちなみに、日本の全国の児童相談所が2016年対応した児童虐待件数は12万件以上だったという。人口比でみると、スイスの児童虐待件数は日本より10倍から15倍多い。スイスインフォは、「児童虐待件数はあくまでも氷山の一角に過ぎない」と指摘し、実数ははるかに多いことを示唆している。スイスでも児童虐待問題は大きなテーマであることが分かる。
当方が住むオーストリアでも例外ではない。児童虐待事件が起きる度にメディアでも報じられる。まだ20歳に満たない若い母親が子供を産んだが、育てることが出来ず、育児を放棄するケース、最悪の場合、虐待して殺害し、その遺体をゴミ箱に捨てたという悲惨な事件もあった。
小さく、弱い存在がいれば、それを守ろうとする動物的本能がある。象やライオン、ペンギンなどの動物の親が子供を身を張って護り育てる姿や鳥の親子の様子などを見ると、親子の情が薄れてしまった人間の世界があまりにも悲惨だ。本来ならば人間には幼いものや子供への自然な愛が備わっている。だが子供の時に親に愛されずに育つと、彼らが親になった時、子供の愛し方が分からないケースが出てくるだろう。
欧州では父親が娘に性的虐待をするケースが多い。調べていくと、娘に性的虐待をした父親も幼い時、家庭で父親から虐待された体験を持っていたというケースが少なくない。児童虐待事件も代々、世代から世代へと受け継げられていく面がある。その忌まわしいチェーンを断ち切らなければならない。
児童虐待事件はやはり家庭崩壊の結果だと言わざるを得ない。児童相談所のネットワークの強化、権限強化、一連の法的整備などは急務だが、同時に結婚や家庭を持つことの意味、役割などを再認識する必要があるだろう。家庭は社会の最小単位だ。そこで人は愛を学ぶからだ。
問題はどのようにして崩壊した家庭を再建していくかだ。家庭の崩壊は少子化を加速させるだけに、国の命運をかけたテーマだ。政治家、有識者ばかりではなく、私たち一人ひとりが真剣に考えていかなければならない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。