米朝会談と「拉致問題」、僕はこう読む

ホワイトハウスFacebookより:編集部

6月12日、シンガポールのセントーサ島で、史上初の米朝首脳会談が行われた。アメリカのトランプ大統領と、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が相まみえたのだ。

今回の会談で両首脳は、共同声明に署名した。朝鮮半島の「完全な非核化」を約束したのだ。この声明について一定の評価は、なされているようだ。だが、事前にポンベオ国務長官が、「北朝鮮側に求める」と強調していたCVID、つまり「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」は盛り込まれなかった。

また、北朝鮮の非核化について、ボルトン大統領補佐官は、「リビア方式」でやる、としていた。リビア方式とは、核廃棄を約束させ、その後、徹底査察するというものだ。だがトランプ大統領は、「リビア方式はとらない」と事前に発言していた。実際、「非核化」の期限や検証方法などの具体策は示されなかった。にもかかわらず、トランプ大統領は、北朝鮮の体制を保証したようなのだ。

どうも、金正恩委員長にとって、有利に事が運んだのではないか。実際に、そう不安に思う声も少なくない。

だからだろう、その後、ポンベオ国務長官は、「トランプ大統領の任期中に決着をつける」と言っている。「決着がつくまでは、米韓合同軍事演習は続ける」とも強調した。「北朝鮮にいいようにやられたのではないか」という、世界中に広まった不安と不満を抑えようとしたのかもしれない。

ところが、である。13日、トランプ大統領が8月に予定されていた米韓合同軍事演習を中止する意向を示したのだ。

実は、4月27日の南北首脳会談時点では、「北朝鮮の非核化」としていた。だが、今回の会談前には、「朝鮮半島の非核化」と変化する。これでは意味がまったく違ってしまう。

「北朝鮮」ではなく「朝鮮半島」となると何が違うのか。「朝鮮半島の非核化」となると、北朝鮮だけでなく、韓国の非核化をも意味する。つまり、韓国に駐留する米軍が、撤退しなければならない事態になりかねないのだ。

なぜ、こんなことになったのか。トランプ大統領は在韓米軍を、「巨額の金がかかるから韓国から撤退させたい」と発言している。

一方で、トランプ大統領は「朝鮮半島の非核化」を錦の御旗にして、「ディール(取引)」するつもりだったのではないか、という専門家もいる。つまりは、米軍の撤退をふりかざして、韓国に対し、「撤退してほしくなければ費用を負担しろ」というわけだ。トランプ大統領、金正恩委員長、彼らは実にしたたかだ。

一方、日本にとって非常に重要な問題がある。拉致問題はどうであったか、だ。米朝会談前の7日、安倍首相はワシントンに飛んだ。トランプ大統領と会談するためだ。

12日の北朝鮮との会談を前に、トランプ大統領に会った首脳は、安倍首相だけである。安倍首相は、日本にとってもっとも重要なテーマは「拉致問題」であり、金正恩委員長に本気で解決を迫ってほしいと、訴えたのだ。

トランプ大統領が会談でどう話をしたかは不明だ。だが、前向きな反応があったのは間違いないようだ。会談後、日本の外務省は、「金正恩委員長が安倍首相との会談に前向き」として、日朝会談に向けて本格的な準備に入ったという。その点は、一歩前進としてよいだろう。

はたして北朝鮮は、「非核化」の約束を守るのか。駐韓米軍はどうなるのか。いま、会談の内容について、期待と不安が相半ばしている。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2018年6月21日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。