今週のメルマガの前半部の紹介です。
新国立競技場計画が迷走しています。当初の総工費1300億円が2500億円以上にオーバーした挙句、その理由&責任者もいまだによくわからないというお寒い状況です。
2500億円というとピンとこない人も多そうですが、スカイツリー(一本650億円)をあと4本くらい作ると言えばスケールの大きさがわかるでしょう。「スカイツリーなんて見たことないよ」という西日本人は、関門海峡をもう一本横に並べてかけるようなもんだといえば、そのバカバカしさがわかることでしょう。※
とはいえ、確かにスケールの大きい話ですが、似たようなケースは日本型組織にはつきものだというのが筆者の意見です。そして、それは個人のキャリアデザインとも密接にかかわってくる話です。
というわけで、今回は新国立競技場問題を人事的にひも解いてみましょう。
「無責任なハコモノ好き」は日本型組織の十八番
仮に、あなたがある部署の責任者だとします。そして、以下のルールを守って組織を運用するとします。
「原則として、メンバーの処遇を引き上げることはあっても引き下げはしない」
上げることはあっても下げられない以上、新人はいちばん低い処遇からスタートし、勤続年数に応じてジリジリ引き上げていくしかありません。
人件費のパイ自体を増やさないと若手の昇給なんて出来ないので、とにかく売り上げを増やそうと、拡張路線でゴリ押しするしかありません。また、仕事を増やすことはポストを増やすという意味もあるので、ベテランも歓迎するはず。逆に、人やポストを減らすことにつながりかねないので、無駄な仕事を見直すインセンティブはとても低いものとなるでしょう。
また、「これってひょっとしてデスマーチじゃないの?」と思っても、組織全体の軌道修正はなかなか進まないでしょう。だってベテランほど組織内で上級のポストに就いているわけで、彼らに自らの経験を上書きしてしまうような意思決定はなかなか難しいものです。まして、過ちを認めれば、誰かが責任を取らねばなりません。
「組織として軌道修正も新陳代謝も進まないならお先真っ暗だろう」と思う人もいるかもしれませんが、大丈夫、もう一つ、組織として生き残る方法があります。それは“社内政治”です。隣の部署からどんどん仕事を取ってきて「もっとうちに予算や兵隊やポストをくれ!」と主張することで、部署を強化することは可能です。外向きの競争ではなく、内向きの競争というわけですね。
というわけで、あなたの率いる部署は、遅かれ早かれ、こんな感じのカラーに染まっていることでしょう。
・やたら仕事のボリュームが多く、幅も広い
・誰が何のために始めたのかわからない業務が目につくが、誰もそれを見直そうとはしない
・新しいことに挑戦する人も、責任を取る人もいない
・近隣部署との関係があまりよろしくない
それなりの規模の企業に勤めていれば、誰でもきっと思い当たる節があるはず。筆者は、日本の官僚機構こそ、まさにこの典型パターンだと見ています。
霞が関では、内閣が代わるたびに、財務省や経産省、厚労省といった省庁がそれぞれの官僚を官邸に送り込み、政権運営の主導権を握るための壮絶な縄張り争いが勃発します。それで日本が良くなれば別にいいんですが、むしろ日本国よりも各省庁の省益が優先されているように見えることが、筆者には少なからずあります。
平成土地バブル崩壊から25年ほど経ちますが、日本が足踏み状態を続け、借金だけが膨らみ続けたのは、彼ら官僚が内向きの“社内政治”を続けたことも一因ではないでしょうか。今回の新国立競技場の一件は、あらためてそのことを思いおこさせてくれたように思いますね。
舛添都知事は「文科省のせいだ」と明言し、実際、第三者委員会を作ってこれまでの経緯も検証されるとのことですが、「こいつが悪のボスキャラだ」みたいな人はどこにもいないと思いますね。たぶん、枯れ気味の人畜無害なオジサン官僚が数人ピックアップされるけれども、ぜんぜん悪意もないし儲けてるわけでもないから最後は当たり障りのない報告書で有耶無耶にされることでしょう。
でも、問題の本質は「逆さに振ってもそういう人畜無害なオジサンしか出てこない責任者不明の体質」にこそあり、人事制度にメスをいれてそれを改めない限り、第二、第三の新国立競技場問題は今後も発生するだろうというのが筆者の意見です。
※総工費2000億円超の第二関門海峡プランは実際に存在している。
以降、
社内政治にどっぷり浸かりすぎると35歳過ぎて泣くことになる
森くんにあって由紀夫くんに欠けているもの
Q:「独身女子ですがマンションは買うべき?」
A:「自分なら独身でマンションは買わんとです。でも、あえて言えば……」
Q:「ホワイトカラー職の評価をデジタルにつけることなんて可能なんでしょうか?」
A:「絶対ムリです。そんなの出来るんなら世界中から中間管理職が消えてます」
+雇用ニュースの深層
脱終身雇用・年功序列に向けてようやく重い腰を上げた大企業
風呂敷を広げるのが大好きだがいまいちやる気の無かった大手電機人事部も、今回ばかりは本気のようだ。
配偶者手当を廃止するトヨタのメッセージ
トヨタは太っ腹でもないし、国の提灯持ちでもない。本件からはトヨタのまったく別のメッセージが読み取れる。
Q&Aも受付中、登録は以下から。
・ビジスパ(木曜配信予定)
・夜間飛行(金曜配信予定)
・BLOGOS(金曜配信予定)
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2015年7月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。