「集団的自衛権の行使は違憲である」という木村氏の意見には、私も(原理的には)賛成である。憲法第9条2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めており、自衛隊は明らかに戦力だから、その海外派兵も違憲である。したがって憲法を改正して、戦力の保持を認める必要がある。
ところが木村氏は、自衛隊は合憲だという。彼がその根拠と称するのは第9条ではなく、なんと第13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」という規定だ。
これは基本的人権を一般的に定めた規定で、武力行使とは無関係だが、彼はこれを無理やり「防衛行政も国政だから13条に含まれる」と解釈し、「政府には国内の安全を確保する義務が課されているから、自衛のための最小限度の実力行使は例外として許容される」という。
自衛隊を例外とするには、その「実力」は第9条の禁じる「戦力」であってはならないが、たとえば芦部信喜は、自衛隊は「戦力」に該当すると書いている(『憲法』第3版)。朝日新聞のアンケートでも、憲法学者の63%が「自衛隊は違憲(の可能性がある)」と答えている。これが通説だろう。
逆に自衛隊が例外なら、集団的自衛権の行使も例外的な「実力行使」だが、木村氏はそれは例外ではないという。外国の防衛を援助することは第13条に定める「国内の安全を確保する」行政ではないからだそうだ。
彼は戦争に「国内戦争」と「国外戦争」の区別があると思っているのだろうか。中国は軍備増強を誇示するパレードをやったが、彼らのミサイルは国境で止まってはくれない。国内の安全を守るには米軍を支援して戦争を抑止する必要があるから、集団的自衛権があるのだ。
したがって「自衛隊は例外的に合憲だが、集団的自衛権の行使は違憲だ」という木村氏の論理は破綻している。自衛隊を認めるなら、憲法第9条を改正するしかない。いい加減にこんな幼稚な詭弁はやめ、憲法学者も国際政治の現実を直視してはどうか。