本屋で本を選ぶ際、何を基準にするか。
勿論、興味のないテーマの本を選ぶことはありえないから、興味のある分野の本だ。私自身は、左右のイデオロギーで本を選ぶことはない。著者が誠実にその問題が取り組んでいることが明らかな著作を選ぶようにしている。
例えば、先日購入した中田考『イスラーム法とは何か』。私自身はムスリムでは無いが、イスラームの思想を、真剣に研究し、真摯な姿勢で著述する中田氏のことを、私は尊敬している。
他にも、ティモシー スナイダー『ブラッド・ランド』。これも非常に力のこもった作品だ。
私にとっては、著者のイデオロギーではなく、著者の真剣さこそが本を選ぶ際の基準となっている。右派が思い付きで書いたような本は読まない。今日も、びっくりするような浅薄な本が出版されていたが、こういう本は読むだけ時間の無駄だ。
だから、自分自身もなるべく誠実に一冊ずつ書いていきたいと願っている。
先日、友人が『平和の敵 偽りの立憲主義』について、次のような感想を寄せてくれた。
岩田さんの書かれた本は、これまでに、『日本人の歴史哲学』『逆説の政治哲学』『人種差別から読み説く大東亜戦争』の3冊を読ませていただいております(買ってまだ読めていない本があります)。今回の『平和の敵 偽りの立憲主義』を合わせて4冊目になりますが、4冊とも、論理明快であると同時に、とにかく丁寧です。沢山の資料にあたって、丹精込めてつくられていると感じられます。論理に乱暴なところを感じないのが、その理由です。妥協したところが無い。
丁寧につくったものは必ず残ります。こういう時によく引き合いに出される方に、ミュージシャンの山下達郎氏がおります。彼のラジオを聞いていますと、必ず『音楽の耐用年数』でしたか、正確な言葉は忘れましたが、そういったことを耳にします。
丹精込めて、作ったものは長く聞き継がれる、ということなのでしょう。岩田さんの本からはそういったものを感じます。
今回の本は、安保関連法案という時事問題を扱っていながら、この本は絶対に古くなることはありません。『今』を取り扱うために、『過去』に遡って、今につながる議論を本当に丁寧に拾っていっておられるからです。これは出来るようで出来ないんです。何を使って、何を捨てるのか、膨大な量の資料を読み、相当悩みに悩んだ取捨選択があったに決まっています。そうでなければ読みてに丁寧さを感じさせるなど、絶対にできません。
沢山の人に、ちゃんと読まれて欲しい本です。特に、安保関連法案についての大騒ぎ中に『反対派の馬鹿騒ぎはもういい、だけど賛成派の意見も乱暴な物言いで、何かいまいちピンとこない。ちゃんとした議論や意見が聞きたい』と思った方、『頭の中をきちんと整理したい』という方はすぐに買って読んだ方がいいです。そして是非広めてください。それだけで社会貢献になります。
大変嬉しかったのは、書き手の気持ちが伝わっているからだ。僕が本を書いて一番うれしいと思う瞬間は、「よく売れた!」ではない。勿論、売れないよりも売れた方がいいに決まっているが、売れるためだけに読者に迎合するような真似はしたくない。出版社が損をしない程度に売れてくれれば、それでいい。一番嬉しいのは、「善き読み手に本が読まれた」と実感する瞬間だ。多くの雑な読者よりも、少数でも丁寧に読み解く読者に読んで欲しいと思うのだ。だから、この感想を頂いた際に、非常に嬉しかった。
何を使って、何を捨てるのか、膨大な量の資料を読み、相当悩みに悩んだ取捨選択があったに決まっています。
この部分を理解してくれない人が余りに多い。結局のところ、引用できる部分というのは、少ない。山のように資料を集めてみても、使う部分はそのうちの本当の一部である。一ヵ所の引用の裏には、引用とならなかった屍の山が存在している。
「よく調べているね」、「色々な引用があるね」と言ってくれる人は多いが、引用の裏にある引用箇所となりえなかった屍の山の存在に思いを致してくれる人は少ない。
善き読み手に読んで頂けて、著者としては、本当に光栄に思う。
編集部より:この記事は岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2015年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。