(編集部より)選挙ドットコムの人気連載「小池みきの下から選挙入門」からの転載です。
選挙業界の人たちに話を聞くときに、避けて通れないテーマがある。「投票率の低さ」についてだ。日本選挙学会は、選管のように一般向けの選挙啓発活動を行っているわけではないが、岩渕先生がこの「皆あんまり選挙に行かない」現状をどう思っているのか聞いてみたい。というわけで、日本選挙学会の理事長・岩渕美克(いわぶちよしかづ)先生へのインタビュー第五回である。
【岩渕先生】
「投票に行かない人が何を考えているかって、実はわからないですよね。行かなかった理由は、現状の政治に満足しているからかもしれないし、不満があって、なおかつ政治に幻滅しているからかもしれないし、無関心だからかもしれない。その辺りについては、選挙に勝った方に、好きに解釈する権利が与えられてしまうんです。だからこそ選挙には行った方がいい、という風にも言えるんですがね。不満があったら今とは違う人に投票した方がいいし、満足だったら満足だということをやはり投票で示した方がいい」
【小池】
「そうですよね……。ただ、『行った方がいい』ってことは私もすごく感じるんですけど、やっぱり誰に入れたらいいかよくわからないんです」
【マツダ参謀長】
「よくわからないのに入れるのは申し訳ない、みたいに思っている人も多いですしね。『政治について多少なりとも詳しくないと関わっちゃいけないんだ』と思われている節がある」
【岩渕先生】
「そう感じている人が多いのは事実だと思います。そして今は、そういう人の受け皿がない状態なわけね。そういう人たちに政治の重要性を理解してもらえるような体制を整えなきゃいけないのはもちろんのこと、今自分が社会に満足なのか、不満足なのかを気軽に声に出してもらえる仕組みを、選挙に限らずもっと作らなきゃいけないですね」
民主主義の国においては、人々は「今現在、自分がこの社会に満足しているかどうか」について主張する権利を持っている。……のだが、普段それを意識することはあまりない、という人の方が日本には多いかもしれない。「政治の世界で何が行われているかよくわからないのだから、この状況に不満があってもアレコレ言うべきではない」というような遠慮の気持ちは、確かに私にもすごくある。
【岩渕先生】
「福沢諭吉は、『政治とは悪さ加減の選択だ』と言っていましてね」
【小池】
「悪さ加減の選択?」
【岩渕先生】
「後に丸山眞男も書いてますけど、つまり『よりマシな人を選ぶ』のが民主主義政治だったり選挙だったりするんだ、ということですよ。『一番優れた人を選ぶ』ものではないんだと。それぞれの良い面を比較するつもりでばかり見ると、『いいと思える人が一人もいない』なんてことになってしまう。だから『誰より誰の方がマシか』を考えるんです。一番嫌な奴が当選するリスクを押さえるためだけにでも投票はしておいた方がいいですからね」
【マツダ参謀長】
「うん、僕もこの仕事をしていて思いますけど、百点満点の人なんか絶対いません」
【小池】
「『悪さ』の比較っていう視点を入れるのも大切ってことですか。確かにそうじゃなきゃ、あとは人に『この人に入れなさい』って言われた名前をそのまま書くとか、何も考えないで適当に目についた人に投票する、くらいしかできることはなさそう」
【マツダ参謀長】
「実際、そういう風に入れてる人が多いんだと思いますよ。『明るい選挙推進協会』の調査結果なんかを見ると、投票した理由として『人に頼まれて』をあげている人の割合はとても高いし。あと、参議院議員選挙の比例代表の方を見ると、名簿の最初の方の人の得票がやっぱり多かったりするんで」
【小池】
「うわあ、やっぱり名簿を最後まで見るんじゃなくて、上の方の人の名前を適当に書いちゃうという……ってすみません、私もやったことあります!!」
【岩渕先生】
「全国比例だと、候補者の人数がかなり多いからねえ。最後まで見るの面倒くさいって思っちゃうよね」
【マツダ参謀長】
「僕は個人的に、最初はそれでもいいと思っています。ただ、できればその時に『誰に入れたか』は覚えておいてほしいんですよね。自分が票を入れて当選した候補者なり政党なりが、その後どういう動きをしたかを気にして覚えておけば、次の選挙の時にまた、それをふまえた選択ができるじゃないですか。その積み重ねで投票行動を最適化していくことが大切なんじゃないかなと」
【岩渕先生】
「同感ですね。生活の中で、俺が票を入れたあの人どうしてるかなーと気にする機会があるといい……というか、思い出さないといけないんだよね。知名度の高いタレントとか文化人の強みはそこですね。人の目に触れる機会が多いから、どうしたって動向を気にされるでしょう」
【小池】
「確かに、政治家の中だと、テレビや新聞で目立ってる人のことくらいしか意識してないです。一応、選挙のときにそれぞれの政策を見てみることはありますけど、どう判断したらいいかあんまりよくわからなくて」
【岩渕先生】
「政策を全部見て全部満足、って候補者はまずいないですし、政治家にしろ有権者にしろ、その一票について『全てが意に沿う相手だった故の投票である』という認識をするのは危険なんですよ。そういう認識で、政治家に『俺は全部オッケーされたんだから何もかも好きにやっていいんだ』って思われたらはた迷惑だし、有権者がいっさいがっさいを政治家に任せてその後は見向きもしない、ってことじゃ民主主義の意味がないし」
【小池】
「一票を投じるってことは、その人に『百点満点です。文句ありません』ってお墨付きを与える行為じゃないんですね。それがわかっただけでも、ちょっと選挙の考え方が変わりそうです」
小池みき:ライター・漫画家
1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年11月14日の記事『百点満点の候補者は、絶対いない!(小池みきの下から選挙入門 .21)』を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。