街路樹や周囲の山々の木々が一気に色づいて、葉も落ちはじめて、めっきり寒くなってきましたね。北海道全域の大停電からおよそ2ヵ月。冬も近くなってきて、みなさんの中には今後のためにさまざまな「もしもの備え」を始めている、という方もいらっしゃることでしょう。
10月某日、私とReplan編集部スタッフは、旭川市にある北海道立総合研究機構(以下、道総研)の建築研究本部長で北方建築総合研究所所長の鈴木大隆さんを訪ねました。鈴木さんは、長年に渡って北海道をはじめとする日本の家づくりの研究に携わってきた、いわば日本の住宅建築についてのエキスパート。新潟県の中越地震や東日本大震災などの大きな災害時には、現地で建物の被害状況の調査や被災者の方々の暮らし・住まいの再建に関わるなど、災害時の住環境の実態についても造詣が深い方です。
私たちが鈴木さんに伺いたかったのは特に、今回のような大停電への備え方と、それがもし冬場に起こったときの対処の仕方です。インタビューを通して鈴木さんにお話いただいた内容を、これから3回にわたって皆さんと共有したいと思います。
冬の停電時。やっぱり役に立つのは「石油ストーブ」と「カセットコンロ」
冬場に停電になると当然、電気を必要とする暖房はすべて使えなくなります。エアコンや電気温水式床暖房、パネルヒーターはもちろん、FF式のファンヒーター、ペレットストーブの一部機種なども電源が必要なので停止してしまいます。とはいえ断熱性・気密性に優れる最近の住宅では、電気が必要な暖房機器を使っている家がほとんど。停電になってしまったら、どのように暖をとればいいのでしょうか?
「緊急時に一時的に使うということなら、誰でもできることとしてはやっぱり、昔ながらの石油ストーブをひとつ常備しておくということでしょうか。今回の大停電でもそうだったと思いますが、ご家族がいればたいてい、リビングなど1ヵ所に集まって過ごすでしょうから、一部屋をそれなりに暖められれば十分なはず。これでカセットコンロがあれば、とりあえずはしのげます」(鈴木さん)。
高性能な住宅内で、石油ストーブを使うときに注意すべきこと
「電源がなくても使える石油ストーブについては、停電が解消した直後からホームセンターなどで飛ぶように売れたという話もありましたが、断熱・気密性の高い最近の住宅で、長い時間使うときには注意が必要」と鈴木さんはいいます。
石油ストーブはいわゆる「開放型ストーブ」のひとつです。「開放型ストーブ」は、燃料自体を燃やして発生する熱で部屋を暖める方式のストーブのこと。薪ストーブやペレットストーブ、カセットボンベ式のストーブなども開放型ストーブです。
石油ストーブは、燃料の灯油を気化させたガスを燃焼させて、部屋の中を暖めます。燃焼には、室内の酸素を使います。酸素を使い続けると当然、部屋の中の酸素が減っていきます。酸素が足りない状態でストーブを使い続けるとどうなるのか…
ガスは完全に燃え切らず、身体に有毒な一酸化炭素を発生させます。最悪の場合、一酸化炭素中毒を引き起こしてしまうことも。多くのみなさんが使っているFF式の暖房機器は、外から新しい空気を取り入れ、同時に燃焼で出る汚れた空気を排気するので室内の空気環境への心配はありませんが、開放型ストーブの場合は、定期的な「換気と新鮮空気の入れ替え」が必須なのです。
2階の窓を少し開けて、階段を「煙突」代わりに換気する
とはいえ冬の停電時には暖をとることが先決。石油ストーブの使用はやむを得ません。鈴木さんによると「LDKで石油ストーブを使っている場合、家が2階建てなら、階段を煙突代わりにして換気ができますよ。2階の窓を5〜10cm程度開けっ放しにしておけば、自然と1階の空気が2階から排気され、新鮮な空気も一定量入ってきます」とのこと。
平屋やマンションの場合は、LDKと逆の方にある部屋の窓を開けて、水平方向に空気の流れをつくれば、2階建ての場合と同じような効果が得られるといいます。「寒いのに窓を開けて換気するのは…」と躊躇するかもしれませんが、開放型ストーブは直火による放射熱と反射板や網による輻射熱で、室内の床や壁が直接暖まります。窓が少し開いていても劇的に室温が下がるということはないので、一酸化炭素中毒などの事故を避けるためにも、換気は必要です。
石油ストーブは家にあるものの「普段使わないから」と物置の奥の方にしまいこんでいませんか?これから冬本番。万が一停電があっても慌てることのないよう、石油ストーブと灯油は、いざというときにすぐ出せる場所に保管しておきたいですね。
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三木 奎吾(みき けいご)1952年北海道生まれ。広告の仕事をへて1982年独立。北国の住宅雑誌「Replan」編集長。