Vlogでも紹介したように、Economist誌はトランプやルペンなどのポピュリストの脅威を論じているが、彼らのようなファシストが実際に政権を取ると予想する専門家はいない。むしろ問題は、このほど自民と公明が合意した軽減税率のようなソフトなポピュリズムだ。
酒類と外食を除くすべての飲料・食料品というのは、公明案の丸のみに近く、1兆円(増税分の半分)以上の減収になる。おまけにインボイスの導入は見送られたので、数千億円の益税が発生し、納税業務は大混乱になって、増税分の2%はほぼ吹っ飛ぶ。その手当は「これから考える」らしい。
これは菅官房長官が主導したようだが、彼のような選挙のプロとしては、これは正解だろう。ここまで全面的に公明に譲歩すれば、彼らは来年の参議院選挙で自民と選挙協力し、与党は圧勝する。安倍支持を打ち出しているおおさか維新と合わせれば、改憲勢力が2/3に達することも不可能ではない。目的は手段を正当化するということだろう。
しかしこれでプライマリーバランスの黒字化どころか、「社会保障と税の一体改革」で打ち出した財源確保も不可能になった。あとは日銀の財政ファイナンスで、向こう3年は国債市場をもたせればいいという判断かもしれないが、こんな綱渡りはそれ以上はできない。そのうち国債が国内で消化できなくなって外債を募集すれば金利が上昇し、それによって国債費が膨張してさらに金利が上がる…というスパイラルに入る。
今パリで行なわれているCOP21でも大活躍しているのは、削減義務をほとんど負わない圧倒的多数の途上国だ。「地球を守ろう」というスローガンに反対することはむずかしいので、実効性の疑わしい美辞麗句で飾った「合意」ができるだろう。
このようにすべての政治家がフリーライダーになり、そのコスト(長期的で見えにくい)を多くの国民が薄く広く負担するのが、21世紀のポピュリズムの特徴だ。高度成長期の日本でも同様のポピュリズムはあったが、田中角栄のバラマキは成長が吸収してくれた。しかし今、そういうごまかしはきかない。
こういうソフトなポピュリズムは、ファシズムや戦争といった短期的な破局より厄介だ。社会主義国を崩壊させたのも、こういうソフトな予算制約だった。これから日本は、最悪の場合は50年以上にわたってポピュリズムのコストを払い続けなければならない。そのダメージが最大なのは、今回の軽減税率を支持している最貧層である。