為替は何処へ?

岡本 裕明

確か、多くのメディアにはアメリカが利上げしそうなので円は更に売られやすくなる、という教科書的なことが堂々と書かれていました。私は違う気がする、と長く言い続けていました。

世の中、スポーツでも喧嘩でもそれは強さを競います。「弱さ競争」は聞いたことがありません。自国通貨を安めに誘導するということは自国製品の輸出が有利になるという発想でしたが、今や、国際資本や巨大企業が資源や製造業を牛耳り、工場や生産拠点は世界にばら撒かれ、為替のリスクヘッジがそれなりに行われている時代に通貨安を目指すと基本的には自国資産価値の相対的劣化を引き起こしやくすなり、「安売り競争」に陥るともいえます。

本来であれば、基本的な通貨政策とは経済の成長と共に自国通貨を強めにすることが正しいとは思いますが、金融政策が世界経済を主導する現代に於いてそれをあたかも潮の満ち引きのごとく、押し引きして自国経済のバランスを保とうとするように見えます。

カナダ中央銀行が先日、将来的に中銀への預金利息をマイナスにすることも検討の一つ、としたことに大きなショックを感じました。正にECB(欧州中央銀行)がやっていることを追っかけようというわけです。間違っていると思います。カナダに於いていくら市中銀行に貸し出しを促しても企業向け貸し出しは「渋ちん」そのものです。ビジネス資金借り入れをアレンジするブローカーと話していても「この半年、銀行の金庫はより厳重に閉ざされるようになった」と述べていました。では銀行は何処に貸し出すかといえばリスクが少なく、担保価値がある個人を中心とした不動産担保ローンでしょうか。私がカナダの不動産市場は来年も堅調だと予想する理由は最大のバックボーンである中銀と銀行がそういうスタンスだからなのです。

円ドルの為替がいよいよ動いてきたようです。これを記している北米時間の11日金曜日は120円台をつけ、引き続き強含んでいます。何故でしょうか?

一部には原油安によるリスクオフから安全資産通貨である円が買われているとされています。短期的見方としてはそうとも言えるかもしれませんが、本質的には円もユーロもアメリカ金融政策に引っ張られるということではないでしょうか?言い換えればアメリカが金利をいよいよ上げると見込まれた段階で円もユーロも更なる緩和の道筋はかなり狭まったということであります。ドルが引き締まるときに円やユーロが緩むという相反する政策は主要通貨だけに取りにくくなり、結果として円やユーロのこれ以上の安値はない、ということではないでしょうか?

ユーロドルのチャートを見ると12月1日の1.057あたりをボトムに現在はほぼ1.100あたりまで戻す展開、つまり、ユーロ高のトレンドが出始めています。円も同様です。一時期ユーロはドルとパリティ、つまり1.000をつけるのではないかとさえささやかれましたが目先は反転です。

もう一つの見方はアメリカ経済はそこまで強くない、だから仮に12月に利上げしても来年以降、そのペースは極めて緩慢なものなると見られているのでしょう。自動車販売など売れすぎている業界も必ずいつかは反動がくるものです。また、国債の行方も注目です。バーゼル銀行監視委員会は銀行の持つ国債に規制をかけるか検討中とされ、仮に一定の枠がはめられれば国債は売られ、利回りは急騰します。10年物などは長期住宅ローンに直接的に影響しますので不動産市場等にダイレクトに影響が出るとされます。

金曜日時点で16日にアメリカが利上げするだろうと見込む確率は85%となっています。これは利上げをしないと市場に与えるインパクトはとてつもないことになる、とも言えます。今の円やユーロの動きは16日の動きを先取りした形ともいえるかもしれません。その場合、日本にとって2016年はゲームチェンジャーになる可能性があることは一つ申し上げておきます。

私が気にする最大の反動は「訪日外国人」であります。年間2000万人に届く水準にある訪日外国人の多くは中国などアジア圏です。その中国の元は急落し4年半ぶりの安値を付けているということは中国人にとって日本の物価が急騰するというを意味します。当然ながら訪日に一定の冷や水となることは覚悟した方がよいでしょう。

厚労省と国交省が民泊を4月ごろから緩和する準備をしています。経済特区関連では大田区が2月から、他に豊島区や品川区がフォローしそうな気配です。民泊が選択肢になった場合、困るのは旅館業かもしれません。そんな声が聞こえないとも限らないのが2016年です。

2015年が円安の恩恵をフルに受けた年だったことを考えると来年もそれが続くと思うとしっぺ返しがあるかもしれません。非常に注意深く見守る必要があると思います。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月12日付より