争奪戦最終局面に入ったシャープの行方

岡本 裕明

1月15日付の読売新聞に台湾の鴻海がシャープ買収に関してその提示額を引き上げTOBも視野に入れていることが報道されています。これは日経が11日の記事で産業革新機構を介して国主導で再建する方針という記事にぶつけてきたわけでシャープ争奪戦がいよいよ本格化します。そしてその最終決着は多分あとひと月程度で決まるはずです。

同社は2016年3月決算で銀行との約束である営業黒字化に対して10-12月の決算では数百億円の赤字になっていると見られています。つまり1-3月決算でプラス数百億円にしなくてはいけませんが、経営環境は厳しいと言わざるを得ません。特にアップル向けのスマホが品余りで在庫調整に入っていることで同社への発注も当然低めに推移せざるを得ません。

銀行の姿勢としては3月31日時点で赤字のままで来期以降も仕方なく支援するという選択肢はほぼなさそうです。つまりそのオプションは
1. 黒字化し、銀行を安心させる
2. 赤字転落のままで改善の見込みがなく、国主導で再建を図る
3. 第三者に売却する
であります。2番の場合、産業革新機構としては液晶部門だけを分社化し、応分の銀行融資額である1500億円相当をデットエクイティスワップ(債務の資本化)し、一旦産業革新機構の傘下にぶら下げます。その後、時期をみて同業でやはり産業革新機構の影響下にあるジャパンディスプレイと合併させるというシナリオかと思います。

一方で液晶部門を売却したシャープは東芝の家電部門と合併させ、新生シャープとして再生を謀るという筋書きです。

このスキームは見た目は美しいのですが、思ったほど容易くないと思います。まず、ジャパンディスプレイとの合併は独禁法に引っかかるでしょう。いくら経済産業省主導とはいえ、これは大きなハードルです。次いで東芝の白物をどうやってくっつけるかです。シャープには買い取る資金はありません。東芝も一円でも高く売りたいスタンスです。銀行は追い貸しはしないでしょう。となれば第三者割当などをする必要があります。これは株主にとっては微妙な選択肢かもしれません。

一方の読売のすっぱ抜きである台湾の鴻海による買収提案引き上げは当初シャープ全部で5000億円相当と言われていましたが今回現在のシャープの時価総額である1850億円の3倍に当たる7000億円まで引き上げる意向を示しているとされます。また交渉によりまとまらない場合、TOBも選択肢の一つとされています。

単純計算では今の110円程度の株価に対して300円以上出す、ということですから株主にとっては恩の字でしょう。どちらかが有利かは市場が判断することになると思います。

最終的には銀行の判断だと思いますがシャープの業績、特に液晶部門が1-3月期に突然好転することはまずないはずで銀行としてエグジットプランが真剣に検討されていると思います。その際、産業革新機構案となれば貸付金が長期に渡り滞留し、脱出困難な資本化される最悪の選択肢となり、本望ではないと思います。

シャープの技術が門外不出だから国主導で再建と言いますが、私にはそんな風には思えません。この分野は日進月歩ですので今持つシャープの液晶技術の鮮度は1年とされています。ならばジャパンディスプレイ単体でそれぐらい取り返すぐらいの努力をすべきでしょう。

私のビジネスの経験や知識からは鴻海への売却が第一選択肢になってもおかしくないと思います。今まで日本企業は買収こそするものの売却には非常に抵抗を持っていました。つまり、抱きかかえすぎの傾向があります。もっとスパッと割り切り、新な道を探る姿勢が大事ではないでしょうか?

北米的な発想ですが、シャープにはもはや当事者能力がないのですから銀行が決めてあげるべきだと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 1月15日付より