消費税を10%で凍結すると何が起こるか

池田 信夫

きょうから消費税が10%に上がった。軽減税率やらポイント還元やらで、コンビニのレジは大混乱になるかと思ったら意外とそうでもない。POSシステムの対応はもう終わっているので、淡々と精算するだけだ。

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安倍首相は「今後10年は消費税を上げる必要がない」と明言しているが、今後増える社会保障の財源はどうするのだろうか。その方法としては、次の5つが考えられる。

  1. 法人税の増税
  2. 所得税の累進性強化
  3. 社会保険料の増税
  4. 相続税の増税
  5. 国債の増発

1は共産党や山本太郎氏が主張しているが、ナンセンスだ。日本の法人税率はアジアでは最高なので、これを上げるとグローバル企業が生産拠点をアジアに分散する一方、国内に残ったサービス業の税率が上がり、労働者の賃金が下がる。法人税の大部分は、労働者が負担するのだ。

2も逆効果である。所得税の捕捉率は低く、海外に逃避しやすい。日本の実効税率は年収1億円が最高で、それ以上は逆進的になる。法人税も所得税も、格差を拡大するのだ。これに比べると、消費に比例する消費税のほうが公平である。

3は消費税の増税が凍結されると、自動的に起こる(特に医療費は激増する)。社会保険料は現役世代だけが負担する「賃金税」なので、これは働く現役世代から働かない老人への所得移転であり、労働意欲は低下する。

4は専門家にも賛成する意見がある。日本の相続税の課税ベースは狭いので、これを広げるのはいいが、税率を上げると資本逃避が起こり、かえって税収が減る可能性もある。全世界の対外純資産の7%がタックスヘイブンにあると推定される。日本の資本逃避は少ないが、これは逃避の余地が大きいということだ。

5は短期的には考えられる。ブランシャールが指摘したように、マイナス金利(r<g)の日本経済で財政赤字を減らすのはバカげている。2025年にプライマリーバランスを黒字にする必要はない。永久にマイナス金利が続くとすれば、社会保障の赤字を無利子の永久国債でまかない、財政赤字を増やすことが合理的だ。

しかし政府債務を2000兆円、3000兆円…と増やしていくと、どこかでインフレになり、金融危機が起こるだろう。問題は、インフレにどうやって歯止めをかけるかである。

これはリフレ派のいうような金融政策では調節できない。金利を上げると国債が暴落し、それが資本逃避をまねいてインフレを加速させるおそれがあるからだ。MMTのいう「緊急歳出削減」も不可能だ。そんな簡単に社会保障支出が削減できるなら、今までにできている。

だがマイナス金利の原因が構造的な長期停滞だとすると、それが2100年まで続く可能性もある。その場合は今の老人と将来世代の利益はゼロサムではなく、財政赤字で将来世代も利益を得る可能性があるが、マイナス金利がいつまで続くのかは誰にもわからない。

つまり消費税の10%凍結は、財政インフレのリスクを将来世代に負担させる政策なのだ。金融危機が起こると富裕層の生活は破壊されるが、そのリスクは今のところ大きくないので、マイナス金利が続く限り財政赤字を続けるべきだという考え方はありうる。

しかし国債に過剰に依存すると、利払いが増えて財政運営が硬直化する。消費税の税率は、まだEUの付加価値税に比べると低い。軽減税率をやめてインボイスを導入すれば徴税コストが低く、消費地で発生するキャッシュフローに課税するので逃避しにくい。

情報弱者は「痛税感」の大きい消費税をきらい、源泉徴収で負担の見えない所得税や社会保険料を好むが、長期的には消費税の増税も選択肢に入れるべきだ。今後の財源の選択は、国会で議論すべき問題だろう。