日本維新の会の足立康史氏が27日の衆院文部科学委員会で、「高校野球で1週間500球以内の球数制限を設けるだけでは私立・公立の強豪校が有利になる。なぜ大会スケジュールに余裕をもたせないのか?朝日新聞や毎日新聞の商業的観点があるのではないか」と指摘しネットの話題をさらった。
ツイッター上では足立氏の質疑に
昨日の足立さんの文科委員会の高校野球の質問。物事の本質は高校野球における新聞利権、価値ある質問
桜やシュレッダーでサボってるや野党議員ばかりではないみたい
足立さんグッジョブ、高野連をぶっつぶす
などと称賛の声が寄せられている。
足立氏が取り上げた高校野球の球数制限の問題は、日本高野連の有識者会議が、来年の第92回センバツ大会から「1人の1週間の総投球数が500球以内とする」などとする内容を答申しており、きょう29日に大阪市内で開かれる高野連の理事会に諮られる。
球数制限導入なら、佐々木投手が全国制覇していた可能性?
足立氏は質問で「高校野球の場合、期間が限られた中で球数制限を入れると、地方の1人しかピッチャーがいないような公立高校が日程を気にしながらプレーに取り組まなければならないルールは見直すべきだ」と指摘した。
これに対し、文部科学省の滝本寛次長は「球数制限が全くなかったところに新たに設けるのは一定の評価をしている。引き続き球児ファーストにするよう議論する」の見解に留まり、ルールの見直しには言及しなかった。
球数制限といえば、昨年夏の岩手大船渡高校エースの佐々木朗希投手が監督の指示で決勝戦を投げず敗れたのが話題になった。
昨年夏の予選大会の決勝戦の登板を回避した岩手大船渡高校の佐々木朗希投手は、7月16日の2回戦から登板。2回で19球、中1日で3回戦に登板し6回被安打ゼロ93球無失点、中2日で4回戦12回194球を投げ2失点、準決勝は129球で完封。4試合で計435球を投じた。
決勝戦を前に大船渡高校監督の國保陽平監督が「投げられる状態ではあったかもしれないが、私が判断した。故障を防ぐためです」と説明。佐々木投手は「監督の判断なので、しようがないです。高校野球をやっていたら、試合に出たい。投げたい気持ちはありました」と語ったものの、この監督の判断を巡って賛否が割れた。
また、本戦の甲子園大会で思い出すのは、一昨年の秋田県金足農業のエース吉田恒星投手(現日本ハム)だ。
吉田投手は予選で636球、甲子園で1回戦157球、2回戦154球、3回戦164球、準々決勝140球、準決勝134球、決勝132球で881球、予選から甲子園の決勝まで1517球と高校球児にはあまりにも負担が大きすぎた。
とくに問題なのは投球数だけではなく、甲子園で3回戦の翌日に準々決勝一日空けて準決勝、決勝とわずか5日間(休養日1日を除く)で570球を投じていることだ。
吉田は決勝戦で今までの投球過多による疲労が明らかに目立ち、大阪桐蔭を相手に5回132球を要し、12安打12失点(自責点は11点)で降板。本人も「痛みというより疲れがたまり投げられない感じだった」と告白している。もし、予選大会や甲子園大会でもう少し休養日を設け日程に余裕を設けていたら、佐々木や吉田は全国制覇できていたかもしれない。
筆者は夏の高校野球を毎年のように足を運ぶが、近年の酷暑で特に甲子園球場に入場するだけで暑さでフラっとする時があり、観戦者が熱中症で倒れ救急搬送されるケースを度々みるようになった。
グラウンドレベルは45℃を超えると言われている、そのような中で特に夏の大会は予選大会の日程から余裕をもたせ、休養日をさらに増やした上で球数制限が必要だと考える。そうでないと、足立が指摘する通り、資金豊富で優秀な選手が集まりやすい私学や公立が有利な大会になるだろう。
足立氏、荻生田大臣の「夏の甲子園大会は無理」発言を引き出す
さらに、足立氏は「ピッチャーが一人の地方の公立高校が地方大会から甲子園を勝ち上がり、高い球数を繰り返し投げても最後まで戦いきれる日程を組めるか阪神球団と交渉するのが入り口」と提案した。
背景を補足すると、高校野球の本選を開催する甲子園球場はプロ野球阪神タイガースの本拠地であり、ペナントレースの日程の都合上、あまり日程が長引くのは難しいが余裕がないわけではない。
現に今春の本選大会は4月3日に終了し、阪神の試合が開催されたのは4月9日と6日あ間、今夏の本選大会は8月22日に終了し、阪神の試合が開催されたのは27日と5日間余裕がある。
雨天中止などを考慮し2日間余裕を設けても今春なら4日間、今夏なら3日間の日程にゆとりがあり足立が指摘する通り阪神球団と交渉の余地は十分にある。
足立氏の提案に対し、荻生田光一・文部科学大臣は「高野連がプロ野球の養成所であってはならない。プロ野球の為にこの選手をつぶすのは勿体ないという視点は大きな間違い」と前置きした上で、「選手の健康管理を考えるのが一番大切な視点」と一定の理解を示した。その上で「IOCのアスリートファーストの観点からいえば、もはや夏の甲子園は無理だと思う。本来高等学校の最終の決戦は秋の国体の場」と、持論を展開した。
翌日に菅官房長官が「甲子園大会の具体的なあり方は、高野連などで考えていただく事柄だ」と、鎮静化に努めたようだが(参照:朝日新聞デジタル)、現職の文科大臣による歴史的答弁ともいえる「夏の甲子園大会は無理」というコメントを引き出した事実は重い。この日の足立氏の質問で最大の見せ場だった。
高校野球の球数制限から日程上の問題に加え、足立氏からはほかにも朝日新聞や毎日新聞の商業的制約が球児を搾取しているのではないかという質問も飛び出した。タブーも恐れずに問題提起したことは大変意義深い。一日も早い高校球児ファーストな改革が求められる。
奥村 シンゴ フリーライター
大学卒業後、大手上場一部企業で営業や顧客対応などの業務を経験し、32歳から家族の介護で離職。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディアのテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。