何のための対価か1.8兆円
高齢者の多くはしばしば、病院、医院に行き、薬の処方箋をもらい、帰りに調剤薬局に寄って、薬を買います。領収証は専門用語が使われているので、なんのことか分からず、おカネを払い、後はゴミ箱にポイです。調剤薬局への支払いが国全体で約1.8兆円に上ります。一体、何に対する対価なのか。
自分の体験をもとに「調剤薬局は本当に必要な存在なのだろうか」という疑問を2年前、ブログで書きました。タイトルは「医療費を食う薬剤師の不労所得」(17年10月31日)、「薬剤師の不労所得論に殺到した抗議」(同年11月3日)などで、数本は書いたでしょうか。
2年前のブログに最近、またアクセスが目立ちます。厚労省は医療費の節約のために、患者に薬を渡すだけの「門前薬局」を減らそうと、診療報酬を改定しました。診療報酬の一つである薬価(薬代)が来年度予算では1%、引き下げられます。
医療費は年間43兆円、その2割強の8兆円が薬代です。これとは別に調剤薬局に払う手数料(手間賃)が1.8兆円ほどでしょうか。薬局で渡される領収証には、調剤技術料、薬学管理料、薬剤料(薬代)という医療用語が書かれています。薬剤料はともかく、故意に意味不明にしてあるのでしょうか。
薬局の領収証を読んでみよう
いつもの循環器内科医院に行き、受け取った処方箋 を調剤薬局に持参し、そこでの支払いは6900円(12月分)でした(自己負担は所得、年齢に応じて1割から3割、人によって異なる)。領収証にある調剤技術料は薬剤師への報酬、薬学管理料とは薬務歴のデータ管理のことです。合計して3200円で、薬代の3600円に対し、この月は4割を超えました。平均でいうと2割から3割でしょう。
多くの人が「薬の入ったカプセルやパッケージを棚から取り出し、患者に渡すだけなのに、なぜ高い手数料とるのか」「医院にも処方箋料(私の場合は1400円)を払っている」「本来の意味の調剤は薬分の調合なのに、製薬メーカーが製造する薬にとって、調剤とは何か」「技術料とは何か。やっている仕事は単純な労働にすぎない」などの疑問を持つのは当然です。
調剤薬局が果たすべき本来の役割はあります。「薬の効果、薬剤情報の説明」「医師の処方箋に疑義がないか」「多種類の薬の飲み合わせによるリスクがないか」「薬の飲み残しがあるかないかの聞き取り」などです。医師がやっている仕事とかなり、重複しています。
厚労省も認識しており、単純作業だけをする薬局を減らそうと、薬価の引き下げ、調剤基本料の見直しに取り組み、薬局の利益率は低下しています。困った薬局側は「買収、合併で集約化を進め、乱立による不経済をなくす」「製薬部門にも乗り出し、製造から販売まで手掛ける」(日経新聞)などに取り組み、新しいビジネス・モデルを模索する動きが広がっています。
手を打たない薬局は淘汰される
私のブログには、「ろくに調べもしないで、いい加減な批判をしている」「お前が早く死ねば医療費も減るぞ」といった感情的な抗議が目立ちました。現実はどうかというと、薬剤師が果たすべき役割を見据えながら、効率化、合理化を進める方向に向かっており、手を打たない薬局は淘汰される。
日経は「薬の無駄をどう省く」という1㌻の特集(12月26日)を組み、専門家の主張を紹介しています。「病院は安い後発薬への切り替えを進める」「後発薬があるのに先発薬を選ぶ患者は差額を自己負担する」「薬剤費が減れば、病院の収支も改善する」と、医大教授が指摘しています。
健保組合の理事は「調剤しか手掛けない薬局は、経営が成り立たない水準まで調剤基本料を下げる」「かかりつけ薬局のように高度なサービスを提供するよう誘導する」と、主張します。「薬剤師は、処方箋とうり調剤する人としか見られていない」という専門家もいます。つまり専門的知識がいらない。
毎月、通う医院の処方箋を持って、先日、薬局に行きました。薬剤師は「お加減はいかがですか」「寒さのおり、風邪をひかれませんように」と。毎度毎度、同じ文言の繰り返しです。どの患者にも同じことを言います。「相談には乗っている」という格好が必要なのでしょう。多くの薬局の現場は、意識の切り替えが遅れています。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。