5G☓コンテンツ。韓国は、未来か?

昨年の4月3日、米Verizonのサービス開始の前日、韓国の通信キャリア3社(SKテレコム、KT、LG U+)が5Gサービスを開始しました。世界最初を獲りに行く執念。日本は来年の予定なので、韓国は未来です。その5Gがどんなコンテンツを生むのか。日韓でできることはあるか。これを論ずるシンポを開催しました。

「韓日コンテンツビジネスフォーラム2019」@四谷。
主催は韓国政府・コンテンツ振興院KOCCA。
韓国がホストなので「韓日」としています。
両国の政治がガタついている今こそ、テクノロジーや文化、ビジネスの話をしよう。
KOCCA日本代表の黄さんはぼくのゼミ出身で博士号を取りました。

平昌冬季オリンピック開会式の総演出家、ヤン・ジョンウンさん、サムスン電子のリム・ジンスさん、eスポーツのPUBGのイム・ウヨルさん。
ぼくが司会でパネル討論を行いました。

リムさんによれば、8月で5Gの利用者は200万人に達したそうです。韓国は先を行く。
ただヤンさんは「まだ実態はない。これからだ。」とします。
韓国のメディアでも、5Gでしか得られない体験が不足、コンテンツがない、ユーザー体験に影響を与えるようになるのは何年も先、という評価を目にします。

とすれば、これから現れるコンテンツの勝負。
リムさんは、「5Gの特性として、超高速(20倍)、超低遅延(10倍)、超連結(面積当たり同時連結機器10倍)の3つを活かす」と言います。
「超高速は360度VRホログラム、超低遅延のクラウドゲーム、超連結はスマートシティ+IoT。」

そして、最初に注力するのは、
・ゲーム:クラウドゲーム
・メディア:4Kライブ配信
・AR:AIを使った教育
とします。
ゲーム構造の改変、4Kの個人化、そして教育市場。
とても戦略的に映ります。

PUBGのイムさん。
「eスポーツは5GでPCベースからモバイルベースに移行する。
そして超低遅延でクラウドベースに移行する。
超連結を活かし、100人単位のプレイヤーが同時対戦する。
4K多画面のマルチビューをスマホで楽しむ。」
eスポーツで韓国を後追いする日本は、初めからこれを狙う?

ところでPUBGはバトルロワイアルというeスポーツを手がけているんですが、これは「日本の映画が元になったので、礼を言う」(イムさん)。
あ、そうなんですか。
深作欣二監督「バトル・ロワイアル」ですね。
ごていねいにどうも。

(我が家にいるeスポーツ専門家によれば、PUBGのバトルロワイアルはeスポーツにとって革命的なジャンルとのこと。5人vs 5人のチーム戦ではなく、100人が殺し合って1人が生き残る。実力だけでなく運も左右することから、「eスポーツではない」とする議論もあるそうで。)

ヤン・ジョンウンさんは、平昌冬季オリンピック開会式を総演出しました。
開会式でみせた多数のドローン演舞には度肝を抜かれました。
「5Gによる超連結を使いました。
5Gでリアルタイム・ホログラムで対面する拡張現実のオンラインゲームができそう。」

ところで3人とも「超連結」に言及します。
日本では5Gの特性として、超高速・大容量、次いで超低遅延が取り沙汰されますが、面積当たり同時連結機器が10倍に増す超連結という機能はさほどまだ注目されていません。
5Gの強みがP2PのコミュニケーションよりM2MのIoTにあるならば、注目どころです。

両国が連携できることってありますかね?
ヤンさん「K-PopとJ-Popの連携。」
リムさん「ゲームコンテンツの制作。」
イムさん「5G網の整備などテクノロジーの協力。」
ポップミュージックとゲームとテクノロジー。
両国の強みです。
競争すべきは競争し、でも連携して世界に向かう戦略、それも大事ですね。

韓国の5G一番乗りを巡っては、サービス開始直後には通信品質やカバレッジの問題で利用者の苦情が殺到するなど、とにかく一番にこだわったことを問題視したり揶揄したりする声も聞きます。
でもぼくは、こだわる根性って結構スキです。
逆に日本はそういうベタなこだわりを失ったよな、と思います。

国策としてブロードバンド網を整備する韓国に負けじ魂をかきたてられ、イット革命のeジャパンに突き進んだ20年前はまだこだわっていた。
遅まきながら光ファイバー世界一の列島をデザインし、達成して溜飲を下げた。
そんな根性って、もう要らないんですかね?

今回、韓国は公共サービス分野から率先して5G導入を図る方針だそうです。
2020年から教育、農業、医療等の分野で5Gを活用した公共サービスが実装されることになっています。
気になるなぁ。
ネットワーク整備だけでなく、公共分野に先行利用させる。
コアユーザを政策的に作る。
戦略的です。

ぼくは日本は5GにしろAIにしろ、先端技術を公共分野に先行利用させ、政策的にコアユーザを作って広げる「利用政策」を取るべきと考えるのですが、政府には同調されません。
整備=提供面でも、利用面でも、隣国に後塵を拝しても、あまり危機感が盛り上がらないとしたら・・・。
そんなことを考えたシンポでした。
カムサハムニダ~


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。