特定野党が17日の予算委員会でまたぞろ審議拒否に及んだ。立憲・辻元清美氏が「桜前夜祭」に関してANAホテルから得たとする書面回答と総理答弁とが食い違ったことから、野党が「総理は書面で回答を出せ」、「出せないならこれ以上審議できない」と一斉に退席したという。
菅官房長官は翌18日、「首相が答弁した通りだ。国会で答弁することは議事録に残る」と記者会見で述べた。まあそうだろう、と筆者も思う。書面答弁が欲しいなら「質問主意書」を出して「答弁書」を求めれば良い。ゴネて途中退席するなどはパフォーマンスに過ぎぬ。
例えば、1月20日には「“桜を見る会の招待者について”の決裁者の変更に関する質問主意書」が野党から提出され、31日に「答弁書」が出ている。衆院のサイトを見ると、想像以上に数多くの「質問主意書」が出されているのに驚く。
書面云々はこの辺にし、次は辻元氏と総理に対するANAホテルの回答の食い違い問題。議員が問題にしたのは、①「領収書は、ホテルの担当者が金額を手書きし、宛名は空欄だった」 ②「ホテル側から見積書や明細書の発行はなかった」の二点(「BuzzFeed Japan」)。
双方のやり取りの様子が19日の「BuzzFeed Japan」の「安倍首相の矛盾点を指摘した“ANAホテル”。自民党本部に出向いた後、“一切開示できない”」なる記事にあるので以下に引用する。(太字はすべて筆者)
・ホテル「(見積書や明細書を主催者に発行しなかったケースは)ございません」
→安倍首相「私の事務所の職員はホテル側と事前に段取りの調整を行ったのみであり、明細書等の発行は受けていない」
・ホテル「(個人・団体を問わず、宛名を空欄のまま領収書を発行したケースは)ございません」
→安倍首相「領収書は宛名を“上様”として発行する場合があり、夕食会でも上様としていた可能性はあるとのこと」
・ホテル「(主催者が政治家および政治家関連の団体であることから、対応を変えたことは)ございません」
→安倍首相「(ホテル側は)辻元議員にはあくまで一般論でお答えしたものであり、個別の案件については営業の秘密に関わるため、(前夜祭のケースは、辻元議員が得た)回答には含まれていない」
もしANAホテルが「桜前夜祭」の個別事案について辻元質問の通りの回答をしたのなら、安倍総理の答弁とは食い違う。が、ANAホテルの回答が「桜前夜祭」という個別事案ではなく、総理の述べるように「一般論」としてならば、話はまるっきり変わってくる。
つまり、「食い違い」は総理の答弁にではなく、辻元議員が入手したとするANAホテルの「書面回答」と、ANAホテルに確認したとする総理事務所や同ホテルに取材した多くのマスコミが得たとする「一般論としての回答」との間に生じていることになる。
上述の「BuzzFeed Japan」は同じ記事の中でこう書いている。
安倍首相の反論に対し、朝日新聞など報道各社の取材を受けたホテル側はさらに「反論」した。前夜祭は営業の秘密に関わるため、辻元議員の回答には含まれていないとする点は「申し上げた事実はございません」と否定。また、「“一般論として答えた”という説明をしましたが、例外があったとはお答えしていません」と答えたという。
また「BuzzFeed Japan」は、直接取材に対しANAホテルから以下のメール回答があったとする。
当ホテルでは、お客様のプライバシーを尊重し、かつ各ご手配における守秘義務も遵守して営業を致しております。催事・宴会の受託と実施につきましても、法令を順守して、対応を致しております。個別のお客様に関わる個人情報および取引の詳細については一切開示することはできません。
「ホテル側はさらに“反論した”」と「BuzzFeed Japan」は書くが、果たしてホテル側の「反論」だろうか。上記二つの引用太字部の意味するところからは、ANAホテルは「顧客に関する個人情報は一切開示しない」し、「一般論として答え」るとの対応で一貫している、と筆者には読める。
つまり、総理答弁にある「個別の案件については営業の秘密に関わるため、回答には含まれていない」との部分は、「(ホテル側は)辻元議員にはあくまで一般論でお答えした」と、考えた総理側が「回答には含まれていない」と解釈して答弁した、と取るなら総理答弁に矛盾は生じない。
20日の産経は「ANAホテル“回答は一般論” 桜夕食会、なぜ食い違うのか」との記事で、同ホテルの以下のような発言を報じた。
- われわれはすべての問い合わせに対し、あくまで一般論としてお答えしている。宴席にはさまざまなケースがあり、一概にこうです、とは申し上げられない。
- 明細書に関してもあくまで一般論だ。個別の案件に関しては回答できない。
- 空欄のまま発行することはない。お客さまに教えていただいた宛名を記入することが基本だ。主催者さまとの打ち合わせで要望に応じて用意する。宛名を“上様で”と言われれば“上様”で発行することはこれまでにあった。
- お客さまの情報に関しては個人情報であり、われわれには守秘義務がある。ホテルとして誰に対しても一切開示することはないとお伝えしている。
これも、まあそうだろう、と筆者も思う。お客の情報を、他のお客や報道機関などにはもちろんのこと、たとえ相手が政党であろうとも、ペラペラ喋るようでは客商売をやっては行けない。普通の常識で考えれば、辻元議員の質問にだけ一般論でない個別事案の回答をするはずがない。
先の「BuzzFeed Japan」の「自民党本部に出向いた後、“一切開示できない”」の見出し記事は、森山国対委員長が、ANAホテル関係者が自民党本部に「来たと聞いている」と述べたことに、立憲安住国対委員長が「圧力と取られかねない」「看過しがたい」などと抗議した、とNHKが報じたことが念頭にあるのだろう。
20日の「ダイヤモンド・オンライン」も「なぜANAホテルは“桜を見る会”問題で最高権力に忖度しないのか」との記事で、「政治に忖度しないANAホテルの態度には巷の賞賛が集まってい」る、「こうした対応は企業として得なのか、それとも損なのでしょうか」と問うている。
「損な行動をとった理由は“外資系”だから?」と、自問した上での答えはANAホテルが「イギリス系企業だから」とのこと。だが、報道を見る限りANAホテルは接客業として普通の対応をしただけに見える。それを自民党に出向いた後に態度を変えた?と臭わせたり、外資系だから忖度しない?などとするのは穿ち過ぎではなかろうか。
それよりも辻元議員のANAホテルとの「やり取り書面」、すなわち、回答が「個別事案」に対するものか、それとも「一般論」なのかに筆者は興味がある。
総理の書面答弁は質問主意書に任せて、立憲にはそのやり取り書面をこそマスコミに公開して欲しいのだが。