29日のロイターは、英国が5G通信機器で中国依存回避へ国際連合の形成を目指す、と報じた。英国は1月下旬にフェーウェイの限定的な参入を許容する方針を示していたが、5月22日にジョンソン首相がファーウェイの参入を制限する方針に修正したことが報じられていた。
新型コロナのパンデミックで方針を修正したとされるが、昨年12月末頃、米国は制裁の根拠でもある「国防権限法」に基づく、ファーウェイの5G攻勢に対する包囲網を築けないとの報道で溢れていた。この英国の方針転換に伴う呼び掛けが実を結べば、ファーウェイや中国共産党に対する打撃となろう。
英国の目論見は、主要7ヵ国(G7:米英日仏独加伊)に豪州、韓国とインドを加えた10ヵ国で民主主義国連合「D10」を形成し、次世代通信規格「5G」や他のテクノロジー関連機器の供給で、中国依存を回避しようというもの。すでに米国政府に打診したという。
韓国まで入れてあるのがどうかと思うが、何とも胸がすく話ではないか。これまで米国のファーウェイ包囲網に賛同していたのは豪州と日本だけ。英独仏加伊は、昨年まではエリクソンとノキアを含めた3社を候補とする方針で、ファーウェイ1社だけを排除することはないとしてきた。
だが、ここ2ヵ月ほどのあっという間に欧州を襲ったコロナ禍と、ここへ来ての香港への「国家安全法」押し付けなどで、欧州でも中国共産党の隠蔽体質や覇権主義・全体主義が一層強く認識され、5G通信網をファーウェイに依存することへの懸念が高まったものと思われる。
欧州でのコロナ流行初期の3月11日には、人民日報が「ファーウェイは世界で5Gの商用契約を91件獲得しており、半数以上が欧州との契約だ。ドイツ、フランス、英国を含む欧州の指導者がファーウェイを5G通信網設備のサプライヤーから除外しない方針を明らかにしている」と報じていた。
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「D10」の状況を個別に見てみると、カナダは、イランへの制裁破り容疑で米国から起訴された孟晩舟ファーウェイ副会長を拘束した報復で、中国にカナダ人元外交官ら2名が逮捕され、またカナダ産菜種の一部輸入禁止を受けた。が、29日にカナダの裁判所は孟を米国に引き渡す道を開く判決を下した。
髭を蓄えて優男イメージを払拭中のトルドー首相は22日、「中国当局が両件を結び付ける様子を見てきた」、「カナダには政治家らの介入や蹂躙にも機能する独立した司法制度がある。同じようにいかない中国はそれを理解していないようだ」と述べた。カナダは英国案に同調するだろう。
フランスは2月13日、ファーウェイを排除しない方針を明言しつつ、制約対象になり得ることや欧州企業(エリクソンとノキア)優先の可能性も示唆した。一方のファーウェイは3月5日、同社の5G向け機器のフランス工場建設(2億ユーロ)は仏政府の同社採用の如何に関わらないと発表した。
ルメール仏財務相は3月4日、ファーウェイの工場建設計画が5Gメーカー3社に対する政府方針に影響しないと述べたが、通信業界関係者はファーウェイの事業展開が認められない可能性があると指摘している。マクロン大統領は中国のコロナ対応を「ばか正直に信じてはいけない」と辛辣だ。
ドイツのメルケル首相は昨年11月、ファーウェイ5G機器を排除せよとのトランプ米大統領の要請を拒絶した。が、政府与党のCDU(キリスト教民主同盟)からも公然と反対の声があり、伝統的に親中の立場を取る連立パートナーの社会民主党(SPD)も反対姿勢を表明している。
これまで(主要3社のうちの)1社だけを排除することはしない、としてきたメルケルだが、4月20日にベルリンで、「中国が新型ウイルスの発生源に関する情報をもっと開示していたなら、世界中のすべての人々がそこから学ぶ上でより良い結果になっていたと思う」と述べた。
マクロンと同様の発言だが、フランス以上に国内ではファーウェイ忌避の声が強いドイツは、果たして英国の「D10」の呼び掛けに答えるか。最後にイタリア。パトゥアネッリ経済開発相は「5G通信網建設でファーウェイの参加を認めるべきだ」と発言した。が、それはコロナ禍前の昨年12月だ。
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以上、西側主要国のファーウェイに対する姿勢を見てきたが、そもそもファーウェイが顧客の情報管理上、本当に危険なのかというそもそも論に移る。この問題は、①同社の機器にスパイソフトが仕込まれているという話と、②同社の保有する情報が中国に筒抜けになる、という二つの話からなる。
包囲網を呼び掛ける米国も、ファーウェイがハードウェアを利用して、スパイソフトや何かスパイ行為を行うことを明確に示唆する証拠を示していない。ポンペオ国務長官も23日、CNBCテレビに(ファーウェイ)が「中国政府と連携していないと嘘をついている」としただけで証拠を述べていない。
筆者は仮にスパイソフトが仕込まれていないにしても、中国の国内法である「国家情報法」や「サイバーセキュリティ法」などを用いて、ファーウェイから顧客の秘密情報を吸い上げるに違いない、と強く考える者の一人だ。が、富坂某と違って信頼できる中国通の遠藤誉博士はその疑いを否定する。
遠藤博士はその根拠を、APとCNBCによる「国家情報法」に関する質問に対するファーウェイ創業者任正非氏の回答に依拠している。その回答を要約すれば、おおよそ以下のようだ。
- 過去30年間、170ヵ国の30億人以上の顧客にサービスを提供し、非常に良好な安全を保ち続けている独立した企業だ。ネット上の安全や個人情報保護に関しては顧客の側に立つ。
- 会社も私個人も、一度もバックドアを付けろというような要求を中国政府から受けたことはない。
- もし「国家情報法」で要求されたら、私は私の会社をあなたに売っても良い。
- あなたが買い取る力がないのなら、私は会社を閉鎖する。顧客の利益を侵害するような事態になるのなら私は絶対に会社を閉鎖してしまう。
- 私が中国政府の要求を実行しないとなると中国政府が私を訴えるのであって、私が政府を訴えるということにはならない。もっとも、私は中国政府が私を訴えるか否かは分からない。
これに加えて遠藤博士は、ファーウェイが中国政府に屈した日には、多くが株主である社員の「燃えるような使命感はその瞬間に消失する。新しい半導体チップを、命を賭けて設計していく意欲は無くなり、普通の国有企業の従業員のように、やる気が無くなり、真に意欲を持つ者は小さな民間企業に移るだろう」と述べる。
そこで「国家情報法」のことになる。人民日報は昨年2月20日、外交部の耿報道官が以下のように述べたことを報じた。
「国家情報法」の第7条は確かに「いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動を支持し、これに協力し、知り得た国家情報活動の秘密を守らなければならない」と定めている。だが続く第8条で「国家情報活動は法に基づき行い、人権を尊重及び保障し、個人及び組織の合法的権益を守らなければならない」と明確に定めてもいる。
香港への「国家安全法」押し付けの所業を見れば、「だから?」というのが筆者の感想だ。共産党が国家や憲法よりも上にある中国のこと、法律は紙に書いてあるだけであって、使うのも使わないのも、また守るのも守らないのも、すべて共産党幹部の胸三寸ではないのか。
中国共産党が、せっかく設けた「国家情報法 第7条」を使わないはずがないではないか。任正非氏がいみじくも語ったように、フェーウェイを米国に売れば良いのだ。あるいは潰して、遠藤博士がいうように「真に意欲を持つ者は小さな民間企業に移」れば良いのだ。
筆者は昨年夏の3週間ほどの台湾滞在にファーウェイのポケットWifiルータをレンタルした。一昨年はNEC製だったが、レンタル料といい、コンパクトさといい、何より性能(電池の持ちや接続距離)も段違いだった。「D10」の形成を望む反面、ファーウェイが使えなくなるのを惜しむ気もある。
コロナウイルス同様に、本件でもまた恨むべきは中国共産党と習近平に違いない。その膺懲の武器には、コロナでは(テドロス排斥の上でも)ウイルスの出自より初期の隠蔽を、ファーウェイではスパイソフトの有無より「国家情報法」の存在を、各々使うのがより有効だ。
メルケルとマクロンの説得に打って付けの安倍総理には、6月のキャンプビデービッド・G7サミットにジャパンミラクルの格好の話題になるアベノマスクをして、颯爽と乗り込んでもらいたい。鉄板のモリソンと呼ばなくても来そうな文は措いて、総理と仲の良いモディも招待したらどうか。