犬も食わない産経ワシントン特派員の大統領選記事

高橋 克己

産経新聞は20日、「『ウソの弾幕』 完全否定されるトランプ氏の『不正』主張」との見出しで、平田雄介ワシントン特派員の大統領選記事を掲載した。筆者は、見出しを一見して、そして読んだ末の内容にも、「なんだ、この記事!」との思いを持った。

Rocky89/iStock

はて「弾幕」とは何だろうか、と訝(いぶか)りつつ記事にある16日のCNNテレビのニュースを当たるとFact checking Trump’s barrage of lies over the weekend」とのタイトル。「barrage」ならば「弾幕」などという死語よりも「集中砲火」の方がピンとくる。

一方、記事の内容はといえば、敗北を認めないトランプの「不正があったと訴え続ける」ツイートは、「主要メディアなどから即座に完全否定されてきたが、トランプ氏が舌鋒を緩める様子はない」として、CNNやNBCのトランプ批判記事を紹介するもの。

たまたま筆者は、台湾の報道チャネルが免許を交付されなかった事件の投稿で次のように書いたが、そこへ、このことを地で行くような記事が産経に掲載されたという次第。

米大統領選報道に見るように報道の現地特派員が、現地報道機関の、経営者の意向丸出しの提灯記事を翻訳して、そこに耳学問の知識で味付けして報じるようでは、筆者の如き拙い書斎ブロガーと同工異曲で、特派員の名が泣く。

今日の米国の主要メディアが挙って反トランプであることなど日本人の多くがとうに知っているから、そんな記事にはちっとも価値がない。

記事は後半で、トランプ票を全米で消したとかバイデン票に改変した、とトランプが名指しで批判する投票システム会社のドミニオン社が「同氏の主張は完全な偽りだと反論した」とし、ペンシルべニアの州務長官がウォール・ストリート・ジャーナルに、「このシステムは検証可能だ、と選挙の正当性に自信をみせた」とも書いている。

ならばこちらの方がよほどニュースバリューがある。なぜなら、元ニューヨーク市長でもあるジュリアーニら6人のトランプ弁護団が19日の会見で、集計ソフトのスマートマティック社と共に痛烈に批判したドミニオン社が反論して居直ったのだし、また同社を擁護したこの州務長官が共和党だからだ。

そして見出しも、例えば「トランプ弁護団が会見も、米主要メディアは『証拠は示さず』と完全否定」などとする方が、記事の内容にも筆者の嗜好にも合う。

加えて、餌に馴らされてか「最近あまり吠えなくなった犬(ならぬ狐=FOX)」の話なども書いてくれたら、さらに良かった。FOXは今回の大統領選でも、まだ州が勝利者を認定していないアリゾナ州でバイデン当確を真っ先に打った。19日の弁護団会見にも同局のタッカー・カールソンは、「We asked the Trump campaign attorney for proof of her bombshell claims. She gave us nothing」とトランプ弁護団の一人、シドニー・パウエル批判を書いた。

カールソンは「ジュリアーニがいかに不誠実で狂気であるか」を書き続けるメディアを、一応は「それは彼らの仕事ではない」、「彼らの仕事は、家にいる視聴者が決心できるように、今起こっていることを詳しく説明すること」と批判する。ならば、弁護団が「証拠は裁判で見せる」と終始述べていることも尊重すべきではないか。

ワシントンの平田記者が、このFOXやヘリテージ財団のニュースメール「The Daily Signal」の選挙結果を覆すことに関するトランプの弁護士による6つの大きな主張」なる記事についても、NBCやCNNと共に翻訳してくれたなら、と産経贔屓の筆者は残念に思う。その「6つの主張」とは以下のようだ。

  1. ジュリアーニが19日にした主張で最も重要なことは、大統領の法務チームが得ている宣誓供述書が選挙を覆すのに十分な証拠を裁判で提供するということ。
  2. パウエルが述べたドミニオンマシンとスマートマティックのソフトウェアの信頼性の問題点や、そのスマートマティックの会長で英国貴族院会員であるブラウン氏が、ジョージ・ソロスが設立したオープンソサエティ財団のグローバル理事会のメンバーであることの怪しさ。
  3. 「郵便投票の危険性」及び10月下旬にバイデンが「我々は米国の政治史の中で最も広範で包括的な不正投票組織をまとめた」と述べたこと。擁護者は単なる言い間違えというが、ジュリアーニは「フロイト的失言(無意識のうちにうっかり本心を言ってしまったとの意)」と冗談めかして述べた。
  4. 憲法は州議会が選挙法を制定すると要求しているのに、州や地方レベルの役人が規則を変更したこと。ジェナ・エリス弁護士は「彼らは米国の選挙システムを破壊したいと思っている」と述べた。
  5. 一部の都市の共和党の選挙監視員が、投票数を数えるのを見るには遠すぎたこと。ジュリアーニは、この件では60人が宣誓供述書を提出したと述べた。
  6. エリスは会見にいる記者に対し、報道が偏っているうえ、法的手続きがどのように機能するかを理解していない、貴方たちは公平な陪審員ではない、と非難した。彼女は、法廷でさらに多くの証拠が提出されると述べた。

さらに、この会見の翌日、シドニー・パウエルはFOXビジネスのルー・ドブスの取材に、選挙ソフトウェア製造会社を訴えることはないが、「選挙結果を無効にするために選挙当局を訴え、議会にそれをさせるだろう、もし必要なら選挙人団とそして議会も」と述べたと20日のEpoch Times紙が報じている。

パウエルは「証拠を出さない」と書いたFOXのカールソンについても、彼は「侮辱的で、要求が厳しく、失礼だった。なので二度と私に連絡しないよう彼に言った」とドブスに付け加えた。

筆者に限らずおそらく多くの読者も、米国の主要な左派メディアの報道のみならず、こうした保守派のThe Daily SignalやEpoch Times、あるいはFOXや中立的なThe Hillなどが、同じ出来事をどのように報じているかに興味があるのではなかろうか。

阿比留瑠比氏がネット番組で、産経デジタルをよろしく、と頭を下げるのを見るに付け、米国の黒瀬・平田両特派員にはもっとしっかりしてもらいたいと思う。同紙のご意見番であり、お目付け役の古森義久氏がコロナ禍で米国に戻れないらしいが、だからこそ。