新国立競技場の都負担は、結局395億円(周辺設備を含むと432億円)で昨年末合意に至った。多くの都民が、どことなく納得できずにいた矢先、今度は「都有地を国に無償貸与」所謂「タダ貸し」することが、東京都議会への報告より先にマスコミ報道となり騒然となった。年が明けた1月19日、上田の所属するオリンピック・パラリンピック等推進対策特別委員会が開催され、都庁側から、無償貸与につき「報告事項」(知事による行政報告。これについて議会側は、疑義は質せても賛否は問えない。)として説明があった。都が無償貸与を現時点で予定している一覧はこちらである。
そして東京都の説明はこちらだ。
委員会質疑において、一体いつ無償貸与が決まったのか経緯を質したところ「招致段階で、IOCに対して組織委員会へ無償貸与を保証」「貸与するのは、国ではなく組織委員会とJSCだ」との答弁。ちなみに、JSCは招致段階では対象外。知事が1月19日の定例会見で「特別措置法(平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法のこと)の中で、国有財産を組織委員会または当該施設設置するものに対して無償で使用させることが出来るという、こういう無償使用の法令に基づく形で行いたい」と発言したことから、「特措法で都民の資産をタダ貸し?!」と質疑で確認したとところ、組織委員会に貸与する各公園は「行政財産」なことから、東京都行政財産使用料条例第5条にて使用料免除、JSCへ貸与するのは新国立競技場用地なので「普通財産」なことから、財産の交換、譲与、無償貸与等に関する条例第4条にて、無償貸付となったことがわかった。
ややこしい。続く上田質疑において、特別措置法のどこを当たっても都有財産は対象ではないことも明らかにし、積極的に都が無償貸与する法的義務はないことを確認した。つまり内閣判断で国有財産を無償貸与する根拠法はあるけれど、それは都に及ぶものではなく、今回の無償貸与は都が、都条例により、主体的判断で行ったということになる。ただし、地方財政法第2条第2項には「国は、地方財政の自主的な且つ健全な運営を助長することに努め、いやしくもその自律性をそこない、又は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行つてはならない。」同法第12条には「国は、地方公共団体に対し、その経費を負担させるような措置をしてはならない。」とある。
つまり、「タダ貸しせよ」等、国は地方自治体に強制してはならぬということだ。上田としては「無償貸与」を安易に決めていく過程で、都民の持ち物である財産管理に差し障りが発生した場合、地方自治法242条にある財産管理を「怠る事実」に当りかねないかと危惧をしている。当然、都は条例と法律に従い適正にやると回答するのだが、それは、タダ貸しありきの、法的後付けに見えて仕方がない。今後裁判が起きたら都は耐えられるだろうか。
これで話は終わらない。3月22日平成28年度東京都予算特別委員会最終日前日の、自民党秋田一郎都議会議員のしめくくり総括質疑にて、大会組織委員会が負担することになっている仮設会場有明体操競技場について、突如として都が方針変更、大会後は都が引き取り、中小企業振興の一貫として展示場とし、4億8千万円を負担することが判明した。国民やマスコミが注目しやすい、オリンピック・パラリンピック予算ではなく、産業労働局予算「国際展示場の運営費等」約200億円の中にもぐりこませていたのだ。
用意周到に予算を作成する都庁官僚も、このタイミングで引き出す自民党も、なんと巧妙かつ狡猾なことか。貴重な血税や資産を、一体誰のもだと思っているのだろう。
「都有財産」=「都民の共有財産」
東京都のすべての財産(土地・建物・道路…etc)はすべて都民のものであり、都知事のものでも都庁官僚のものでも、ましてや当該施設や用地のある地元議員のものでもなければ、国の尻拭いのために上納するものでも、肩代わりするものでもない。
都の予算書は、細かい事業を明記していないので見つけ出すことが事実上不可能に近く、上田は予算書のあり方も会議の場で質してきた。
タダ貸しについても、地方自治法237条以下、原則無償貸与は禁止で、例外として条例または、議会の議決があって初めて認められるということであるから、まっとうな議員が、情報の非対称性にさらされない環境を整備して、チェックをしていかねばならいと、改めて気を引き締めている。
上田令子 東京都議会議員(江戸川区選出)
外資系保険会社勤務、会社経営を経て、2007年、江戸川区議選で無所属で初当選し政界入り。11年再選。13年都議選で初当選を果たす。現在は、地域政党「自由を守る会」代表。著書に「ハハノミクス」(世論社)。http://www.ueda-reiko.com/index.php