会長・政治評論家 屋山太郎
中国は欧米に嫌われて世界で孤立化を深めているように見える。ロシア、トルコ、カンボジアなどでも中国式強権政治が国民の民主化要求を抑え付けているという不満が根強い。
世界情勢の中で米中どちらが優勢なのか。もちろん軍事面においてである。軍事抜きの検証など意味がないし、非軍事の価値など原爆1個で消し飛ぶ。1950年代にソ連がアメリカを追い越すと言われた時代があった。共産主義がヨーロッパ世界に浸透し、ソ連が世界経済に占める割合は1950年の11%から70年には12.3%に増加した。60年代、私はローマに赴任していたが、イタリアは「奇跡の成長」と言われ、7%成長に沸いていた。実は日本は当時倍の14%の成長を遂げていた。日本について紙面には「黄禍」(ペリコロ・ジャッロ)と書いて糾弾調の記事が溢れていた。しかしソ連もイタリアも日本もやがて経済はゼロに近い成長に落ち込む。
1962年、強気のソ連がキューバに核ミサイルを持ち込もうとした事件があった。当時のケネディ大統領は「断固阻止」を通告して、米ソ衝突の危機を東西が味わった。ソ連が引っ込んだ理由について外交通の大先輩、小林淳宏氏から聞いた。彼は60年代に「核戦略時代の外交」(文芸春秋)という本を書き、それを教科書に使っている大学がまだある。ケネディ大統領の通告を受けてフルシチョフ首相はマリノフスキー国防相を呼んで一言訊いたそうだ。「アメリカと戦えばどっちが勝つか」、マリノフスキーは明快に「アメリカです」と答えて、米への返答は一瞬で決まったという。
GDPの将来推計(ゴ-ルドマンサックス)によると、2050年のGDP総額は、中国は45%、米国は35%、インド26%、日本6%強だ。中国は共産党革命100周年目の2049年には軍事でも米国と匹敵すると豪語している。
しかし次回に迎える核戦争危機はキューバ危機のように単純なものではない。海上自衛隊と中国海軍が戦争すれば、中国が4日で勝つという見方がある。その時、米海軍が黙って日中戦争を見ているのか。中国としては米軍の動向が気になる。日本も台湾を巡って香港のような事態を座視するわけにはいかない。
こういう事態が予想できるなか、日本は米国と手を切って中立的立場を守るべきだという、どうしようもない外交音痴の親中派がいる。最終的に米欧がソ連に勝ったのは米欧が連合したNATOがあったればこそである。
対中圧力に対しては、日米豪印のクアッドに加えて英仏独が明確に加担の意志を伝えている。隣近所に迷惑しか及ぼさない中国は成長率を落とすだろう。米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査では、米国にとって中国が「敵」か「競争相手」とする回答が合わせて89%に上る一方、「パートナー」と位置付けたのは9%。この3年間に対中感情は急激に悪化した。中近東諸国でもコロナを境に、民心の中国離れが顕著に進んでいる。
(令和3年3月10日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年3月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。