政策提言委員・拓殖大学主任研究員・元韓国国防省分析官 高 永喆
今年1月9日、朝鮮労働党第8回党大会で改正された党規約が最近、明らかになった。
新たな党規約の特徴は、金日成・金正日の個人名が削除された点である。
「敬愛する最高指導者」と呼ばれる金正恩総書記の名前は、新しい党規約に一度も登場していなかった。「党員は偉大な金日成同志と金正日同志を永遠なる主体の太陽として高く崇め、敬愛する金正恩同志の領導を忠実の情をもって奉じていかなければならない」という「党員の義務」条項も削除された。北朝鮮では党規約が憲法より上位にあるので、これは大変な出来事だ。
新しい党規約で祖父と父親と自分の権威が貶められたにも関わらず、現職の金総書記は受け入れざるを得なかった。不思議である。なぜか。そこで浮上しているのが、金総書記は実権を党と軍部に奪われた操り人形ではないかという見方だ。
今月8日、米国の北朝鮮専門メディアのNKニュースは1ヵ月ぶりに動静が伝えられた金総書記の腕時計の皮ベルトが長くなっていることを指摘し、同氏の体重急減を報じた。金総書記は糖尿病や高血圧、心臓病などの成人病を患っている。祖父の金日成、父親の金正日が心筋梗塞で死亡するなど成人病の家族歴もあるため、健康異常説が絶えない。そのたびに注目されるのが後継者候補たちの権力構図だ。現在、候補者に挙げられているのは、妹の金与正、朝鮮労働党組織指導部副部長の趙甬元、党軍需工業部長の李炳哲の3氏である。金総書記の幼い息子への世襲、すなわち金日成の曾孫までの世襲は考え難い。
北朝鮮は元来、男尊女卑の儒教思想が根底にあるので、与正氏は優先順位から外れる可能性が高い。最終的には党を代表する趙甬元と軍部を代表する李炳鉄の2人が後継者をめぐる権力闘争で実権を握る可能性が高いとみられる。3代にわたる金日成専制王朝を支える2本柱は反日(抗日戦争)と反米(朝鮮戦争)である。しかし、新しい指導体制が登場すると、外交路線は親米路線に変わる可能性もあり得ると考える。
2000年10月、北朝鮮の趙明禄次帥がクリントン大統領(当時)を訪れ、金正日総書記の親書を渡した時、「北朝鮮は親米国家になる意思がある」と発言した。また、金桂冠外務次官(当時)も07年と11年に米国を訪れ、親米国家になる意思を表明したことがある。金日成専制王朝体制が潰れ、新しい指導体制が登場する場合、北朝鮮は米中二股路線で離脱、親米路線に舵取りする可能性が期待される。
(*本稿は6月28日付「世界日報」に掲載したコラムを部分的に修正したものです。)
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高 永喆
拓殖大学主任研究員・元韓国国防省分析官
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。