先日、NHKが「アメリカの情報機関を統括する国家情報長官室は(6月)25日、軍の内部で目撃情報が出ている未確認飛行物体、いわゆるUFOに関する分析結果をまとめた報告書を公表しました」と詳しく報じた。報道内容を確認してみよう。
報告書によると、2004年以降、アメリカ軍などの政府機関で「未確認飛行物体」の目撃情報が144件報告された。このうち1件については「気球」と特定されたが、そのほかの情報に関しては「中国やロシアが開発した技術の可能性がある」と指摘しつつも、「特定するための十分なデータがなく、正体については依然、結論が出ていない」とした。
さらに、21件については、「物体の推進装置が見当たらないにもかかわらず、高速で不規則に移動するなど異常な動きを示した」とした。
また、物体が航空機に異常接近した事例も11件報告されており、報告書はこうした物体が「航空機の安全を脅かし、安全保障上の脅威になりうる」との懸念を示し、さらなる情報収集や分析の必要性を強調した。以上に加え、NHKはこうも報じた。
報告書には「宇宙人」などのことばは盛り込まれていませんが、アメリカのメディアは政府高官の話として、これらの物体が地球外の技術によるものだという可能性も排除していないと伝えていて、真相究明を求める声は今後、さらに高まりそうです
これでは、宇宙人が操縦するUFOが実在するかの印象を視聴者に与えかねない。本当にUFOは実在するのか。報告書に至った最近の経緯を振り返ってみよう。
発端は2017年12月17日付の米有力紙『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』の記事だった。記事によると、米連邦上院のハリー・リード院内総務(民主党)が調査を要求。宇宙ベンチャー企業が受注し、軍人がUFOを報告した事案などについて、調査と研究を進めた。国防総省関係者は同紙の取材に「米国防情報局の所管で始まり、5年後の2012年には終了した」と断りつつ、調査研究事業の存在を認めた。
調査対象には、空母ニミッツから発艦した艦載機F/A-18Fが2004年、カリフォルニア州サンディエゴの沖合で遭遇した物体の映像も含まれる。その映像は同記事のウェブ版にも載り、大きな話題になった。
ウェブ版には別の映像も載った。長円形の白っぽく発光する飛行物体が回転しながら高速で移動する不思議な映像である。目撃した艦載機のパイロットが「隊列をなしているぞ、マジかよ」「おい、あれを見ろ。回転しているぞ」と叫ぶ音声も記録されていた。その映像はのちに「空母ルーズベルトの艦載機F/A-18Fが2015年に大西洋沖で撮影したもの」と同紙などが報じた。
2019年には、米海軍が「ここ数年、無許可や未確認の航空機が軍の管制圏および指定空域に入ったという報告が多数寄せられている」と声明を発表した。それらを不可解な現象として無視せず、軍の安全を守るため、公式に記録を残して調査するべく、目撃情報の報告手順を定めた指針の作成に着手した――複数の米メディアがそう報じた。
憶測を呼んだ結果、国防総省は昨年4月、「過去に出回った映像が本物かどうかや、ほかにもあるのではないかといった人々の誤解を解くため」、前出の映像3件を海軍の映像と公式に認めて公開した。同省は8月、「タスクフォース」の設置を承認したと発表。「米国の安全保障に脅威を及ぼす可能性がある未確認の空中現象を探知、分析、分類する」とした。
実は私も、現役自衛官時代、以下のような光景を何度か見た。
課業終了後、基地内のBOQ(独身幹部隊舎)や基地近傍の官舎に若いパイロットが集まる。3等空尉がグラスを片手にさり気なく「今日のフライトで不思議な光を見なかったか」と切り出す。すると同僚の3尉も「ああ、俺も見た。やはり、お前も見たのか。ありゃ何だと思う?まさかUFOじゃないよな?」
本来なら直ちに報告すべき事象である。事と次第によっては領空侵犯事案として対処し、結果を政府が公表しなければならない。だが若手パイロットの会話は弾まない。
前出の記事には、リード上院院内総務の発言がこう載った。
「そうした目撃情報は、軍の指揮・命令系統を通じて上がってこない。軍人は笑われたり、おかしなやつだという烙印を押されたりすることを恐れるからだ」
私が見た空自パイロットと同じだ。日米とも軍人(自衛官)の心理はさして変わらない。かくして、UFOらしき目撃情報を、正規の指揮系統を通じて報告しなかった空自の戦闘機パイロットを多数存じ上げている。事実、目撃証言を集めた実録本(『実録・自衛隊パイロットたちが目撃したUFO 地球外生命は原発を見張っている』講談社+α新書)もある(詳しくは「サンデー毎日」6月27日号拙稿)。
ただし、UFOとは、文字通り未確認飛行「物体」である。だが(前出「気球」などを除き)、米政府が公開した動画に映るものは、物体に見えない。たとえば空中を高速移動する際にエンジンから出るはずの炎や、海面に突入する際に発生するはずの水しぶきなどが確認できない。
案外知られていないが、米国防総省は「UFO」とは呼ばず、「UAP」(未確認航空現象)と呼ぶ。空飛ぶ「物体」ではなく、何らかの「現象」……そうなら、合点がいく。
なのに、日本では公共放送までが「未確認飛行物体、いわゆるUFO」と興味本位で報道する。UFO実在の有無は断定しないが、NHKの報道には、こう書いておこう。
「UFO」の正体見たり、枯れ尾花。