メキシコの大統領がリーダーとなって米国の影響下にある米州機構に対抗すべくラテンアメリカ・カリブ諸国共同体を発展をさせようとしている。
メキシコがラテンアメリカ・カリブ諸国のリーダーになろうとしている
ラテンアメリカには米国が中心になって組織された米州機構(OAS)がある。ところがメキシコでアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領(アムロ)が2018年に就任してからは米国とカナダが参加していないラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)という組織を発展させてOASに変わろうとする動きがある。
CELACは2010年の創設であるが、この創設には米国を排除しようとしたベネズエラの当時の大統領ウーゴ・チャベス氏の影響が強かった。チャベス氏が病死してその後を継いだニコラス・マドゥロ大統領の政権になってから、この組織の発展に協力を始めたのが強かな中国である。2015年に中国は北京でCELACの一部元首と20数か国の閣僚が出席してのフォーラムを主催して中国のCELAC加盟国への支援を約束した。
チャベス氏がいなくなったCELACは一時勢力が停滞していたが、メキシコで左派系の大統領アムロ氏が誕生してラテンアメリカでのリーダー的存在になることに関心を示すようになった。何しろ、ラテンアメリカのスペイン語圏で経済的にトップの位置を占めているのはメキシコである。
アムロ氏の政権が誕生する前まではメキシコの歴代大統領の視線は常に米国に向けられていた。ラテンアメリカのスペイン語圏でしかも経済的にもトップの位置にありながらリーダーになろうとせず、常に北米の南部地方という意識をもっていたのがこれまでのメキシコの国家指導者であった。
中南米のリーダーがメキシコ詣でを開始
アムロ氏はこの考えから180度転換させてラテンアメリカにおけるリーダー国になろうとしている。ということで、これまでラテンアメリカのリーダーがメキシコ詣でを開始している。先ず、2018年12月の彼の大統領就任式にベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が招待された。それにキューバのミゲル・ディアス・カネル国家評議会議長も出席した。
2019年にはエクアドルの元大統領でベルギーに亡命しているラファエル・コレア氏がアムロ氏を訪問して彼が大統領だった時の側近らが首都キトのメキシコ大使館に亡命した際に同大使館が彼らを保護したことに感謝を表明するためであった。なお、コレア氏は帰国すれば汚職で起訴されることになっている。
またアルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領も今年アムロ氏を訪問した。同国が抱えているファンド会社ブラックロックへの債務の返済についてアムロ氏が同社のオーナーラリー・フィンク氏と懇意にしている関係を利用してその返済を緩和化したいという狙いがあった。
そして2019年11月にはボリビアのエボ・モラレス元大統領が亡命したいということで、メキシコの空軍機を送って彼をメキシコに連れて来て一時的に彼を保護した。そのあと彼はアルゼンチンでアルベルト・フェルナンデス氏が大統領に就任したのに合わせてアルゼンチンに移動した。
更に今年3月にはボリビアで大統領に就任したルイス・アルセ氏がアムロ氏を訪ねた。
以上はマイアミ電子紙「パナム・ポスト」(3月26日付)を参照した。
アムロ氏はまた中米グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの発展の開発プランとして1億ドルを用意した。
米国の米州機構に対してメキシコのラテンアメリカ・カリブ諸国共同体
現在CELACの会長であるアムロ氏の野望はCELACをOASに対抗できる勢力にさせようとすることである。と同時にOASを仕切っているウルグアイ出身のアルマグロ事務総長を解任させることである。何しろ、アルマグロ氏は米国の手先となってOASを運営しているということに強い不満を抱いているからである。
実際、ボリビアでエボ・モラレス元大統領が再選選挙で不正があったということを口実にして彼の失脚を図ったのは米国の仕業で、その手先として動いたのがアルマグロ氏であったという説が今では有力視されている。それを証明すべく、現在のボリビアは右派のアニェス暫定大統領は逮捕されてエボ・モラレス政権時に財務相だったルイス・アルセ氏が大統領に就任している。アニェス氏が暫定大統領となったのも米国がOASを操作してエボ・モラレス元大統領を失脚させてボリビアのリチウムの開発に米国も食い込む糸口にするためだったと一部専門家の間では指摘されている。
このようにしてアムロ氏は彼の後継者と目されているマルセロ・エブラルド外相と一緒になってラテンアメリカにおける左派系のブロックを構築しつつある。その実現化の為にCELACを利用しようとしているのだ。
そして9月18日、メキシコシティーでCELACの首脳会議が開催された。2017年以後は開催されていなかった。今回の会議にはマドゥロ大統領とディアス・カネル評議会議長も出席した。
この会議で44項目の合意が交わされた。そのひとつが1500万ドルの資金を用意して環境危機に取り組むとした。(9月19日付「ラ・ラソン」から引用)。
またこの共同体の加盟国でコロナワクチンが十分に供給されていない国へのワクチンの配布も約束された。米国への不法移者の多いい中米3か国に対し産業発展の支援を差し伸べることにも合意がされた。(9月17日付「エル・パイス」から引用)。
これらすべてが今回の主催国であるメキシコのイニシアティブから生まれたものであった。
ところが、アムロ氏がこの会議でベネズエラとキューバの存在感を強め、米国からの両国への制裁を解除させようと訴えた姿勢に対し、ウルグアイとパラグアイがこの2か国は独裁国家だと指摘し、今回の会議に2か国が出席したことを批判した。この批判にエクアドルも加わった。ということで、ウルグアイのラ・カーリェ大統領とパラグアイのアブド・ベニテス大統領がマドゥロ大統領を批判し双方の間で激しく議論の応酬があった。
33ヶ国が加盟しているCELACを一つの方向に導くのは容易ではない。