鈴木会長辞任は企業統治のケーススタディに

イトーヨーカ堂の若手取締役だった鈴木敏文さん(当時)がその他経営陣の反対を押し切って米国セブンイレブンのライセンス契約を獲得し、豊洲に日本1号店(FC)を開いたのが42年前。試行錯誤の中で新しい流通モデルを確立していった話は余りにも有名です。

80年代には米国の本社を買収し、世界最大の小売チェーンとして今も成長を続けています。

スケールはかなり違いますが、米国本社の店舗数を数年で抜き、その後は支援する側に回ったという意味ではタリーズ・ジャパンも同じです(何度か検討した米国タリーズの買収は実現しませんでしたが)。鈴木会長とは何年か前に一度お話をする機会を頂きましたが、非常にお元気だということと共に(当時は70代)、お付きの方々がかなり気を使ってらっしゃるなという印象を受けました。

今回、どのような思いで突然の辞任発表に至ったかは分かりません。
問題となっている井阪COOがどのような人物なのか、背後にいる伊藤名誉会長(伊藤家は10%の株主)とどのような確執があるのかも噂では耳にしますが、部外者に胸の内までは分からないでしょう。

しかし、記者会見で辞任の理由として「自分が示した人事案が否定されたということはなかった」という発言があったと聞き、少し驚きました。それでは「指名・報酬委員会」「社外取締役」は何故設置されたのでしょうか。そのようなガバナンスは形式上のものに過ぎず、自身の存在がそれをオーバールールできると思っていたことが要因の一つにあるのではないかと疑ってしまいます。

そのような認識では米国の投資ファンド(現状はサードポイントが5%の株式を所有)とは渡り合う事ができません。

日本のマスコミは外資系ファンドのことを「物言う株主」と書くことが多いですが、オーナー(株主)が口を出すのは当たり前のことで、その表現を使い続けていること自体が日本の意識がまだ変わっていないことを物語っています。

今回は一部の株主や社外取締役が動いた例としてケーススタディに値するものかもしれませんね(同じような出来事は10年前のタリーズ・ジャパンでも起こりました。その詳細は回顧録「愚か者」に書かせて頂きました→ http://ameblo.jp/koutamatsuda/entry-12117266857.html )。

日本独自の「コンビニ」を創り上げ、新たな「形」としてそれを米国に逆輸入させることに成功した鈴木会長。
最後は、米国から日本にやってきた「ガバナンス」と「日本型ではない本来の株主の論理」に押し切られ、経営から退場することになったということには、回り合わせのようなものを感じてしまいます。


編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、参議院議員の松田公太氏(日本を元気にする会代表)のオフィシャルブログ 2016年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。

 

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