セブンは鈴木敏文氏の引退で変れるのか?

イトーヨーカ堂、そしてセブンイレブンを率いてきた鈴木敏文氏が引退を決意したようです。日本の代表的企業の現役経営者としては83歳と最高齢の一人であり、先般引退したスズキ自動車の鈴木修氏(85歳)と共にダブル鈴木体制の終焉となりました。

今回の引退を突然の引退と表現する記事も見受けられますが、ご本人は背中を押されるきっかけがあればいつでもその準備が出来ていたように思えます。そしてこの剛腕ながらワンマンの経営者にとって余程のことがない限り引退するきっかけはあり得ないのではないかとも思われていたのですが、察するにイトーヨーカ堂の創業者である伊藤雅俊氏との意見相違が引き金になった気もします。

直接の話は鈴木氏と確執があったとされる井坂隆一セブンイレブン社長を降板させる人事プランを強引に推し進めようとした鈴木氏の自爆的人事騒動でありました。モノ言う株主であるアメリカのサードポイントも反対、人事を決める指名報酬委員会も社外取締役2名が反対、更に創業者の伊藤氏も反対という「三面楚歌」の状態で取締役会で強行突破を試みました。が、取締役会では15名のうちの7名の支持に終わり、過半数である8名取れず、「四面楚歌」が完成、力尽きたというのが流れであります。

この数行の中にあるギトギトした話は今後、必ず尾ひれをつけてさまざまな形で表に出てくるでしょうし、小説やドラマにもなってもおかしくないほどのストーリーかもしれません。鈴木氏の経営者としての生きざまを描いた小説が将来発刊されればぜひとも読んでみたいものです。ちなみにこのような小説を書かせるなら個人的にはお亡くなりになった山崎豊子氏の人間像に迫る豊かな表現の方が池井戸潤氏のような勧善懲悪型よりも面白いとは思います。

さて、実際のセブンアイホールディングズの決算をセグメントで見ると果たしてこの会社の将来はどうなるのだろう、という疑問符がつきます。もともとスーパーマーケット冬の時代でその転げ落ちる部分をコンビニ部門であるセブンが補うという構図が何年も続いています。ところがセブンも業界の中では横綱でも数字を並べてみれば2014年2月期から16年2月期まで売り上げは完全に足踏み状態になっています。強力な出店攻勢に出ていますが、飽和市場ですからそう長くは続けられない気もします。

利益においてはコンビニ事業はまだ上昇しています。但し、売り上げが伸びない中で絞り出す利益にも限界はあります。一方、スーパー部門は4年間で利益額が78%も減少しています。特に15年から16年で63%も落としてしまっています。これは巨大化したセブンアイも一歩間違えばガタガタと音を立てて崩れる可能性すらあります。

では、海外にその成長があるのか、といえば親子逆転で買収したアメリカのセブンイレブンの事業は売り上げについてはこの3年、やはり足踏み、但し、利益だけは伸びているように見えますが為替が強く影響しているように思います。北米に於いて私はセブンなどまず見向きもしないのですが、それはあまりにも品揃えが品疎で入り口には乞食が立っていてドアを開ける代わりに小銭を乞うようなところもあります。学生や若者が清涼飲料やお菓子を買うマーケット以上のものがほとんど育っていないように思えます。

つまり、数字から見るセブンアイの将来は不安要素たっぷりなのですが、なぜそうなったのか、一つには鈴木体制が強すぎ、取締役会が十分機能していなかった気もします。数年前の日経ビジネスにセブンアイの特集があり、その中で鈴木会長が試食してうまいといえば皆、右へ倣いで旨いという実例が会社の姿を表していたと思います。

ここからセブンアイが苦労するのは巨大化した組織を大所高所から強いリーダーシップをもって引っ張りぬく人材が生まれるか、であります。同グループには他にそごう/西武もありますし、セブン銀行や通販のニッセン、更にはチケットのぴあからタワーレコードまであります。これだけカバーエリアが多い会社も少ないと思いますが、個人的には多少、リストラして、事業の取捨選択を進め、企業統治がわかりやすく、やりやすいものにしないとスーパーマンでもいない限り難しい気がします。

異様に膨れ上がった組織体としてはソフトバンクが好例ですが、孫氏もかつては自分の後継者は数名必要ということを発言していたこともあります。セブンアイがこれから陥りやすい問題はコンビニ部門の社内での発言力の上昇で企業グループとしてのバランスが崩れることでしょう。そういう意味ではセブンアイの今回の試練は多くの巨大企業に共通する課題になるとも言え、今後の経営陣の手腕が問われることになると思います。もちろん、サードポイントは手ぐすねを引いてその展開を注視することでしょう。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月8日付より